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アイザキガカリ
24
 なぜ俺はいいのかと思ったが、不意に何かが俺の中で合致した。
 以前、俺がパソコンを使える人間を魔法使いのように思えるとか言った時に相崎が妙な反応を示したような気がする。
「あのさ、相崎のうちにあったパソコン…」
 俺が言い終わる前に相崎はにやりと笑って言った。
「覚えてたのか」
 やはり関係があるようだ。
「呪文を唱えて魔法を使う。プログラムを書いてコンピュータに仕事をさせる。なんだか流れが似てるだろ」
「プログラム?ゲームとかの?」
 俺が「プログラム」と聞いて思いつくのはゲームだった。
 ゲームと相崎はあまりイメージはあわないが、相崎がなりたかったという「魔法使い」はゲームにでてくるものが一番近かったせいかしれない。
「ゲームは作ってない」
 しかし相崎はあっさりと否定し、俺になんとか説明しようとしているのか、俺の反応を伺いながら考え考え言った。
「…ミドルウェアってわかるか?…わからないか。…くそ、どこから説明すりゃいいんだ」
 最後のはほとんど独り言で、そんな相崎をみて俺は理解する努力をすぐに手放した。
 どちらにしろその手のことを詳しく説明されたところで、俺に理解できる自信はない。
「学校でいつも眠そうにしてるけど、もしかしてそういう勉強とか夜にしてるから?」
「勉強もしてる。けど、ここ一年は仕事のせいだな」
 仕事?
 思いもかけない言葉だった。
 それと同時に裕介が相崎が学校に来なくなったのはたしか去年の夏ごろからだと言っていたことを思い出す。ちょうど一年前だ。
「もともとフリーソフトの開発プロジェクトに参加してたんだ」
 相崎が言うには世の中には無償でソフトウェアの開発をするプログラマのコミュニティがあって、相崎もそういうのに参加していたらしい。
「その出資企業が海外の大手に買収された。俺の参加してたプロジェクトも買収の対象だったから、俺は今はその買収した企業と契約して開発を続けてる。金がもらえるようになった代わりに、いろいろ面倒な作業が多くなって時間もなくなってきた」
 出資とか。企業とか。買収とか。海外とか、契約とか。
 俺にはあまりに縁のない言葉に面食らい、愕然とした。
 同い年なのに、この差はなんなんだろう。
 無為に時間を過ごしている自分と、寝る間も惜しんで仕事をしている相崎。
 俺は彼が学校にこない理由をあれこれ想像し、そのどれもが低俗だった。それを思い返すと心の底から恥ずかしい。
「本当は行けなくなってきた時点で学校は辞めようとしたんだが、どうしても親父が許さなかった。籍だけ置けるだけ置いておけってな」
 俺なんて学校が生活のすべてだ。
 学校を辞めるなんて思ったことすらない。
 それも学校が自分の将来がどうだとかは考えもせず、ただ習慣で行っているだけで。
「…でも今は辞めなくてよかったと思ってる」
 相崎のその言葉に返事もせず、俺は自分への羞恥のあまり膝を抱えた。

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