アイザキガカリ
18
俺たちはその後すぐにマックに入った。注文を済ませて席につくなり裕介が言った。
「さっきの人、佐々木さんだっけ?店って何?」
「飲み屋」
「ホストクラブとか…?」
裕介も俺と同じ印象を佐々木誠司に抱いていたらしい。
「いや。普通の」
バーテンダーとかだろうか。普通の飲み屋で働いているときいて、佐々木に似合うのはそれしか思いつかなかった。
「なんかかっこいい人だったなあ。モデルみたいで」
裕介が同意を求めるように俺に言ってきたので、俺も頷いた。
「うん。背が高くてな」
だけど、俺は同じ色男でも相崎みたいな方が好きだ。どこか凛としていて媚びたところのない清潔な感じ。
そう思いながら相崎を見て、俺は言葉を失った。
相崎は不機嫌きわまりないというように険しく眉を寄せ頬杖をついていた。
そういえば先ほど自分が相崎の機嫌を損ねたことを思い出した。
「で、でも、俺は相崎の方がかっこいいと思うけど」
つい口から滑りでた。
本心とはいえ、なにを子供だましのようなおべんちゃらをと思う。それに相崎ならきっとこんなこと言われ慣れているだろうから、ご機嫌とりどころか益々機嫌を損ねてしまうかもしれない。
相崎が頬杖をついたまま俺を見た。眉根は寄せられたままだったが剣呑さは消え、どこか当惑するような表情に変わっていた。
そしてついと自分のトレイを俺の方へ差し出した。
ポテトを長い指で差し一言。
「それ食えよ。やる」
裕介がそれを見て爆笑し、俺も相崎の方がかっこいいと思うと尻馬に乗った。
しかし相崎はそれにはわざと知らん振りを決め込んでいた。
それからテストが終わるまでの半月の間、相崎は学校へ来た。
たいてい酷く眠そうにしており、休み時間になるとスイッチが切れたように頬杖をついた姿勢のまますーっと眠りに入る。
その姿は彫像のように美しく、伏せられた長い睫が特にきれいだと俺は密かに思っていた。
休み時間はそんな調子だが、相崎の授業態度は素晴らしく、ノートを書くのが苦痛だと言っていたわりにどんなに退屈な授業でも、きちんとした姿勢でペンを滑らせていた。
数学が得意なようで、授業にろくすっぽでていなかった癖に、小テストでクラスでただ一人満点をとり皆を驚かせたりもした。
体育の授業でもここが共学だったら黄色い声があがっていただろうと思う活躍ぶりで、その完璧さに俺はただひたすら恐れ入るばかりだ。
先生には礼儀正しく、クラスメイトには案外気さくな態度をとり、あっという間に誰もが相崎に一目置くようになっていた。クラスの何人かは親しくなりたそうなそぶりをしていたが、相崎は一体どういうコントロールをしているのか誰も自分のテリトリーには入れようとせず、もっぱら俺と裕介と一緒に行動していた。
目立つ奴と目立たない奴の組み合わせというのは珍しいことだろうが、クラスメイトたちは「市川は相崎係だったから」と納得していたようだ。
そんな感じで相崎は圧倒的な存在感を示しつつ、クラスに馴染んでいった。
そうすごしているうちに相崎とキスした記憶はだんだん薄れていき、あれは性質の悪い冗談だったということで俺の中では片がつきつつあった。
寝る前にふと思い出して、悶絶することはあったけれども。
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