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アイザキガカリ
19
 一学期の期末テストが終わった開放感は格別だ。
 明日からテスト休みに入り、終業式の後は夏休みが待っている。
 相変わらず眠そうにしている相崎の横で裕介とテストのできについて話しながら帰り支度をしていると、以前合コンに誘ってきたクラスメイトたちがやってきた。
「相崎たちさ、今日暇?こないだの女の子たちがまた遊ぼうって言って来てるんだけど」
「ごめん。俺この後、委員会があるんだ」
「そっか。じゃあまた今度な」
 裕介が行かないのなら俺もなにか理由をつけて断ろうと思った時だった。
「市川は?そういえばあゆみが市川くんのメアドきいておけばよかったーって言ってたらしいぜ」
「えっ」
 あゆみちゃんはこの間比較的よく話した女の子だ。確か、笑い上戸で話し上手な感じのいい子だった。電話番号どころかメールアドレスもきかれなかったのでこれきりだろうと思っていたのに思わぬ展開だ。
 行ってもいいかもしれないと心が激しく揺れる。
 しかし相崎の言葉に心の揺れはぴたりとおさまった。
「悪いな。俺とこいつは先約がある」
 コイツ。それが俺のことを言っているのだと気づいて焦る。
 まずい。何か約束してたっけ。
 懸命に記憶をたどり、考えるがさっぱり思い当たらない。
「えー!!!相崎こないと困るんだけど!」
 突然の責めるような口調に驚いた。裕介の時とはずいぶん違う反応だ。裕介も同じことを思ったのか苦笑している。
「いいじゃん。何時になってもいいからさ、ちょっとだけ顔出してよ」
 口々に言うクラスメイトをまるで無視するかのように、相崎は立ち上がった。そして俺を促す。
「行こうぜ。じゃあな、多田」
「うん。またね」
 そして裕介の返事を背にさっさと教室を出て行ってしまった。
 俺は裕介とクラスメイトたちを交互に見てごめんとだけ言って相崎の後に続こうとしたが、クラスメイトに引き止められた。
「この間のさあ、由梨ちゃんっていたろ?」
 由梨ちゃん。確か相崎とずっと話していた綺麗な子だ。うなずくとそいつは困ったような顔をして言った。
「相崎にさ、由梨ちゃんにメールでも電話でもいいから連絡するよう言ってくんね?」
 それに頷いて慌てて相崎を追おうとすると、「頼んだぞ、相崎係」とクラスメイトの声が飛んだ。
 
 
「相崎!」
 昇降口でやっと相崎に追いついた。
「なんだ?」
そう答えつつも相崎は足を止めず、靴を履くとさっさと玄関へと向かう。俺も慌てて靴に履き替え、駆け足で相崎の後を追った。
「今日、なにか約束してたっけ?ごめん、俺、覚えてなくって」
「……うちに来るって言ってただろ。来いよ」
 ウチって相崎のうちへ?
 そんなこと言っただろうか。
「ごめん、それっていつごろ約束したっけ?」
 相崎は立ち止まって振り返り、俺もつられて足を止める。自然、俺は相崎を少し見上げることになり、相崎は俺を見下ろす。
 怖ろしいほど整った顔はさすがに多少は見慣れたが、こうして相崎が伏し目がちになるとなんだか心が落ち着かない。
 不意に相崎が手を上げた。
 そして人差し指でぴんと唇を軽く弾かれる。
 「………!!!」
 それで思い出した。
 俺が相崎のうちへ行くと言ったのは―――。
 キス、された日だ。
 動揺と共に一気に顔が熱くなり、それをみて相崎は満足げにニヤリと笑った。
 「一度家帰ってから来いよ。じゃあ、また後でな」
 そしてまた足早に校門の方へと去って行ってしまった。
 後に残された俺は、その後姿を見送ることしかできなかった。

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