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アイザキガカリ
17
 カラオケではみんなしゃべってばかりで歌わなかったが、結局3時間ほどいた。
 相崎の隣に移ってからは俺は相崎とばかり話していた。
 俺が来るまでは相崎は綺麗な子といい感じだったのでお邪魔だったかと思ったが、相崎は俺にばかり話しかけるので、もしかすると彼女には興味がなかったのかもしれない。
 しかし女の子の方は相崎のことを気に入ったようで、帰り際に相崎とメールアドレスを交換して喜んでいた。
 ちなみに俺は当然誰からも聞かれなかった。まあ自業自得だ。
 女の子たちとは使う駅が違ったので、カラオケ屋の前で少し話した後に別れた。
 野郎だけでまとまりもなく雑踏の中、駅へ向っている途中に俺は裕介に言った。
「どっかでなんか食ってかない?俺、腹減ったよ。お袋に今日は飯いらないって言っちゃったしさ」
 女の子たちと別れてとたんに気が抜けたのか空腹を覚えた。
「いいよ。俺もあんま食べなかったし。みんなも誘おっか。俺いってくるよ」
 そう言って裕介は前を歩いていたクラスメイトたちを追いかけて行った。
 さて、マックか吉牛かラーメンもいいなと思っていると突然腕を引かれた。
「俺も行ってもいいか?」
 相崎だった。
「え…あ、うん。もちろん」
 頷くと相崎は俺の隣に並んで歩き出した。
「…なんか気に入られたみたいだね、あの子に」
 俺が言うと相崎はちらりと俺を見た。
「まあな。たまには悪くないな。こういうのも」
 いかにももてる奴のいいそうなことだ。思わず笑ってしまう。
 だって、もしも俺が相崎の立場だったら、あんなに綺麗な子に気に入られるなんて最初で最後の僥倖かもしれない出来事なのに。「たまには悪くない」なんてまったく羨ましい限りだ。
 すると相崎は途端に不機嫌そうに眉をしかめた。その上、ため息をつく。
 え、どうして?
 何か気を悪くするようなことをしてしまったのだろうか。もしかして俺が笑ったから?
 「相崎、どうし―――」
 「たーかしー!」
 俺が呼びかけた声は誰かの声によってさえぎられた。
 相崎がその声の方へ顔をむけたので、「たかし」が相崎のことだと気づく。
 俺もつられるようにそちらを見た。
 そこには背の高い男がいた。相崎よりもさらに高く190は軽くあるんじゃないだろうか。
 男の髪は金髪に近いといっていいくらい明るい茶色で、大きくはだけたシャツからはネックレスが覗いていた。相崎に向ってあげた片手をあげ、その指にはごつい指輪をいくつかしているのが見える。
 ものすごく派手で、ホストかひょっとするとヤクザか、そんな印象を受ける人間だった。
 「今日はまたどしたん。そんなコーコーセーみたいな格好して」
 男は俺たちの方へ近寄るとからかうようにそう言った。
 「俺の歳知ってんだろ。わかりきってるこというな」
 相崎が軽く舌打ちをしぶっきらぼうに返すとその男は愉快そうに笑った。
 「ひっどいなぁ」
 軽薄そうな男だが、なかなかの色男だ。目の色も睫の色も茶色く見えるから、もしかして地毛なのかもしれない。
 相崎とはまた違ったタイプだ。
 「いっちゃん、みんな腹いっぱいだから帰るって――ん?」
 その時裕介が戻ってきた。
 「相崎君の知り合い…ですか?」
 果敢にも裕介は男にそう尋ね、男はそんな裕介を見て目を細め、にっこり笑った。
 「んー、まあね。僕は佐々木誠司っていいます。よろしくね。そっちの彼も」
 そう言って俺にも笑いかける。愛想のいい男だ。
「で、貴史。彼と彼。どっちなん?」
 佐々木誠司と名乗った男は俺と裕介を指差し相崎に尋ねた。
 何のことかわからず、俺と裕介は顔を見合わせ、同時に相崎を見た。
 すると相崎とばっちりと目が合ってしまい、わけもなくどきりとする。
「へー!予想が外れたな。…ええと、君、何君?」
「あ、えっと、市川です」
「市川、なに君?」
「和樹ですけど…」
 カズキ君ねと男は満足したように言う。
「誠司、お前とっとと店行けよ。――いこうぜ。相手してるとキリがねぇ」
 不機嫌そうに相崎が言い俺たちを促すように歩きだした。
「つめたいなあ。じゃあね。和樹君。そっちの眼鏡くんも」
 俺と裕介はひらひらと手を振る佐々木誠司に向ってなんとなく会釈をしてから、相崎の剣呑さにおののきつつ後を追った。

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あきゅろす。
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