短編集
沖田に恋する妖主(薄桜鬼)9
「僕はまだ戦えるッ!!」
森の中、眠っていた私は体中を何かがすり抜けるのを感じました。
それは、誰かの声か、想いだったのでしょう。
私はそれをよく感じるときがありました。
喜びを称える声から人を恨んで憎む声まで、
私は数え切れない時間の中で聞いていましたが、
聞き覚えのある声は初めてでした。
気がついたら瞬間移動を行っていました。
力の弱い妖の私が使ってはいけないほどの高難度の術でした。
しかし、奇跡的にそれは成功し、私は戦場に経っていました。
「・・妖か。戦いの最中に現れるとは、いい趣味を持っているようだな」
「そ、それは悪気があったわけでは・・!!しかし、お願いです!!こいつの命だけは助けてやってくれないでしょうか!!」
今にも意識を失いそうな宗次郎を抱きかかえ、懸命に命乞いをします。
相手は高貴な鬼の方。
機嫌を損ねれば(損ねつつあるけれど)、私の命にも関わるでしょうが、そんなことさえどうでもいい、と思えるほど、彼には生きていてほしいと思ったのです。
「・・あ、やか、し・・」
小さかったけれど、確かに私を呼ぶ声が聞こえました。
「・・そ、こに、いる、の・・」
何かに焦がれるように伸ばされる手を、無駄だと知りながら握りしめました。
「そうだ、私だ。私はお前のそばにいるぞ!」
彼には聞こえないと、私の声は届かないのだと知っていても、答えずにはいられませんでした。
そんな私たちの姿を見た、高貴な鬼の方は「興が冷めた」と姿を消しました。
瞬時に私たちを見逃してくださったのだと察しました。
「・・ほんとだ。妖、僕のそばに、いてくれてる、んだね」
私たちだけになった部屋の中で、宗次朗は途切れ途切れに呟きました。
「え・・?」
彼は畳を赤く染めた己の血に映る私を見ていたのでした。
「・・ずっと、逢いたかった」
彼の身体から力が抜けたのを感じました。
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