短編集
沖田に恋する妖主(薄桜鬼)10
「おい」
「…お前は…」
眠る宗次郎の隣に座っていた私に話しかけたのは、彼がいた道場に通っていた青年でした。
「なんでてめえがここにいる」
「あの頃のてめえは、ただ総司を見ているだけで害は無さそうだから放っておいたが…」
青年の言葉は刺々しく、静かに私を睨みつける瞳はとても冷たいものでしたが、今の私にとっては、とても心地よく感じました。
「よかった」
「…ああ?」
「宗次郎のこと、大事に思ってくれているから」
青年は、驚いた顔をしていました。
「ああ、私も人になれたらよかったのに」
闇夜に浮かぶ月が、私と青年を照らしていました。
私の言葉を聞いた青年は、どこか興味深そうな様子でした。
「妖怪ってモンは、自由に化けたりできるんじゃねえのか」
気まぐれに私は、青年に私のことを教えてやることにしました。
この青年は、宗次郎とはちがい、あの少女と同様に常に私を視ることができ、何より彼を心から心配していたからなのでしょう。
「私がもっと力の強い妖だったなら___そう、あの御方と張り合えるくらいに…!___宗次郎は、怪我をしなかったのかもしれない」
「そもそも、私が人だったなら…私は宗次郎と共に生き、共に老い、共に死ぬことができるのに」
「私はあの子がただ好きなのだ。あの子が傷つくのを見たくないだけなのだ。」
ただ、それだけなのに。
「青年よ、どうか頼む。あいつの隣にいるだけでいいのだ。許してはくれないか」
生きているとはわかっていても、顔色が悪いままの宗次郎を見ていられなくて、私は意を決して彼の胸の上に手を置きました。
淡い光が彼を柔らかく包み込み始めます。
「お前、それは…」
「大丈夫だ、私の命を削って宗次郎に流しているだけだ」
自分でも想像していなかった己の行動に、私はもう彼という人間に心を奪われたのだと悟りました。
「…お前も物好きだな。こんな生意気なひねくれ者のどこがいいんだか」
「それはお前もだろう」
人という生き物は不思議なものです。
人同士で傷つけ合ったり騙し合ったり、
なんて愚かなことをする生き物なんだと軽蔑すれば、
弱い癖に、何かを必死に守ろうと運命に足掻いたりするのです。
そして、ひょんなきっかけから、我々の目を奪い、魅了し、離れられなくする…
「…変なことすんじゃねえぞ」
「まったく、面白い人の子だ」
「人の子じゃねえ、土方だよ」
ああ、ますます彼らから離れられそうにない…
私の手から流れ出る光が強くなりました。
前に会った時よりも"新鮮"なにおいがしない宗次郎から、嫌な感じがしたのです。
私は随分と涙脆くなりました。
強欲になりました。
とても、臆病になりました。
全部、宗次郎が私に与えてくれたものです。
だから、お礼に彼を元気にせねばと思いました。
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