EternalKnight
<別れと約束>
3/10(木)
<Interlude-叶->――昼
午前中で卒業式の予行演習は終わり、私は一人でここに来ている。
翼に遊びに行こうと誘われたけど、どうしても来ておきたかったので、それも断った。
季節は冬から移り変わり始め、徐々に春になってきている。それでも、吹きすさむ風は未だ冷たい。
目の前には『聖家之墓』とだけ書かれた墓石。
墓石は少し汚れている……花も飾られていない。
望さんには家族が居ない。全員事故で無くなったと言っていた。
でも、この墓に参りに来ているのは私だけじゃない。
――誰かは知らないけれど、何人かも知らないけど、絶対に居る。
盆の時期には、私が来る頃には必ず花が新しくなっているから――
だから、私が居なくなってもこのお墓はきっと綺麗なままだと思う。
だけど、それでも。私なりの礼儀として、水はとても冷たいけれど、このお墓を綺麗にしておこうと、そう思った。
――綺麗にお墓を磨き終えて、花を奉り、お線香を焚く。
そして、お墓の前にしゃがみこみ、両手を合わせて瞳を閉じて、呼びかける。
――望さん、お久しぶりです。
しばらく来てなかったので怒ってるかも知れないけど聴いてくださいね?
えっと、報告が遅れちゃいましたが、私にもホントの意味で恋人が出来ました。
前に私の正体がばれたから諦めちゃった翼の事です。
……って、よく考えたら、翼に告白されたのってここだったっけ?
一々報告しなくても良かったのかな?
それでね、色々とあって、この世界を離れなくちゃいけなくなっちゃいました。
……だから、ここに来るのもコレが最後になると思うの。
ひょっとしたら、またお休みを取って戻ってくるかもしれないけど……それもいつになるか分からないから……
だから、コレで一応お別れです。今日はそれを言いに来ました。
望さん……もう生まれ変わって、ここには居ないかも知れないけれど――
私も、翼と共に……
私が愛した、そして人間でもない私を愛してくれた人と……共に永遠に生きていきます。
望さんの魂がどこかの世界で平和に暮らしているのなら、翼と共に歩めるなら、それだけで……私が戦っていく理由は十分だから――
だから、生まれ変わったら……これから先何度生まれ変わっても、ずっと幸せに生きてください。
それじゃあ……私はもう行きます。さようなら――
そう伝えて、私は瞳を開き、立ち上がった。

3/11(金)卒業式
<SCENE101>――昼
卒業式が終わる。
別に、卒業式そのものに出たかったわけじゃない、俺はただ、友達に……そして翔ねぇに……別れの言葉を言いたかっただけなのだから。
何も無いのに別れの言葉を言えば怪しまれるけど、卒業式の後で、それもみんなと少数が進む就職と言う道へ進むなら、怪しまれたりはしないだろう。
最後のHRも終わり、後はただ、校内に居る卒業生と教員に別れを済ませるだけ。
教室を出るまでに何人ものクラスメイトと別れの挨拶を済ませていく。
そして、教室の外へ――さて、人気者でも探しに行こうかねぇ。
今は叶とは別行動だ、最後の別れはそれぞれ別々に、済ませたい奴等とのみ済ませていく。そう決めた。
学校中を駆け回り、やっと見つけた。
そして、目の前には俺の親友……きっと、俺の事をもっとも良く分かってくれる――
「全く、進学しないなんて聞いてないぞ? 翼。僕が進学する為にどれだけ勉強したか分かってるのか?」
呆れるように、ため息を吐きながらそう言った。
「あれ、お前……勉強なんてしてたのか、裕太? つーか別に俺あわせなくても良いっての」
「別にいいだろ、僕には目標なんてなんて無いんだ。それより、どうしてくれるんだ? これからまた四年も勉強しなきゃいけないじゃないか?」
「だから、勝手に俺に付いてこようとしたお前が悪いんだって!」
コイツと、裕太と、こんな話が出来るのもコレが最後……か。
「んでさ、翼って結局何やるんだよ? 聞いたところによると叶も一緒らしいじゃんか」
コイツなら……ホントの事を言っても冗談だとは思わない、そんな確信があった。
「うーん……まぁなんて言うんだろうなぁ……正義の味方かな? 俺自身はそんな大それたことやるつもりじゃないけど」
それでも、少し冗談っぽく、そう言ってみるが――
「ふーん……んで、その道……僕についていけるか?」
真顔で返されてしまった。まぁ、コイツには嘘付けないか……
だから「無理だ」と、短く、一言で即答してやった。
「ならいいや。んじゃあ僕は何を目指そうかねぇ……俳優でも目指してみようかねぇ?」
そんな事をまたも真顔で言った。
「そんな簡単に決めて良いもんか? つーかいくら顔良くても無理だろ、お前には」
「勝手に決め付けんな、少なくともお前の正義の味方よりはマトモだよ、俳優は」
「まぁ、それもそうか――」
そこで会話が途絶える。
だが――裕太の声で、再び会話が始まる。
「まぁなんだ、次に会えるのは何時ごろだ?」
「さぁ、俺にもわかんねぇ」
「あぁそう。んじゃ、お前が何時でも俺と会えるように、ホントに大物の俳優にでもなってみるかねぇ――」
「まぁ、無理だろうけどがんばれよ」
「はっ、有名になってからサインくれ〜なんて言いに来ても僕はサインなんてやらんからな?」
「言わねぇよ。それじゃあな、裕太」
「あぁ、またな、翼。翔ねぇの所にも行ってやれよ、あの人アレでお前のこと結構気に入ってたみたいだからさ」
「お前も、待たせてる女子達の下に早く行ってやれよ!」
「言われるまでもねぇよ、じゃ、またな」
そう言って、裕太は、俺に背を向け玄関口へ向けて走り出した。
「あぁ、またな……裕太」
その後姿を見送って、俺は小さく呟いた。
さぁ、俺も翔ねぇの下に行かないとな――

<SCENE102>――昼
教室に戻ると、翔ねぇと数人のクラスの女子達が話していた。
……他の姿は教室内に見えない。彼女達の話が終わったら、翔ねぇに別れの言葉を言わなくちゃいけない。
思えば、出会ったのは四年前だった。聖五さんの姉として紹介され、気に入られ……色々と面倒を見てもらった。
親父も母さんも死んで、兄さんも行方不明になった俺を……親代わりとまでは行かないけれど、姉貴分として可愛がってくれた。
だから、別れの言葉も……しっかりと伝えなきゃいけないと、そう思う。
教室から、翔ねぇと話していた女子達が出てくる。
彼女達と翔ねぇとの話は終わったみたいだ……さぁ、行こう。別れを……告げに――
言いたい言葉はまだ決まってはいないけれど、俺は教室のドアを開いた。
「教室の外に突っ立ってないで、あの子等がいる内に入ってこればよかったじゃない」
教室に入るなり、俺が教室の外に居たのを知っていたのか、翔ねぇが声を掛けてきた。
「気づいてたのかよ……さすがだな。彼女達と話してたから気づいてないと思ってた」
「うーん、実はあの子達との話が終わって直ぐに気が付いたんだけどね。それで、私に何を言いに来たの?」
何人もの生徒の話を聴いていたせいか、早く本題に取り掛かろうとしている、まぁ本題だけを聴きたいって事なんだろうけど。
「えっとだな、特に何も無いんだけど……翔ねぇと話すのもきっとコレが最後だろうからさ、話でもしたいな、とか思ってさ」
「ちょと……最後って何よ?」
「言葉の通りさ。きっと……翔ねぇと会う事は無いと思う」
その一言で、翔ねぇの表情が歪み、次の瞬間には背中を向けられた。
「なんでよ……別に、連絡さえ取れれば、予定が合えばいつでも会えるじゃない。どうして最後なのよ」
今までに聴いた事も無い様な、涙声になりつつある声でそう言った。
「俺と叶は……そう簡単に帰ってこれない場所に行くんだ」
「アンタも……居なくなるの? 紅蓮や真紅ちゃんみたいに……居なくなっちゃうの?」
そう紡ぐ、翔ねぇの肩は微かに震えていた。
「……あぁ。でも、俺はここにきっと戻って来る。聖五さんに、翔ねぇに、裕太に、みんなに会う為に」
「嘘じゃ……無いでしょうね?」
「いつか……いつになるか分からないけど約束は……ちゃんと護る」
その一言で、翔ねぇが目元を拭いながら、振り返る。その瞳は軽く充血していた。
「……わかったわ、それじゃあ、私もしっかりと見送ってあげないとね」
だけど、それでも……笑顔でそう言ってくれた。
「あぁ、それじゃあ、俺はそろそろ行くよ」
そう言って、翔ねぇに背を向け、教室のドアを開き、一歩踏み出す。
――瞬間、背後から「いってらっしゃい」と、少し震えた、明るい声が聞こえてきた。
その声に答えるように手を上げて、だけど決して振り返らずに、「いってきます」とだけ言って、教室を後にした。

――to be continued.

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あきゅろす。
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