EternalKnight
<約束の歌>
<Interlude-グレン->――昼
――風が、冷たい風が頬を撫で、流れていく。
周囲には冷たく無機質な柱が等間隔に葬列されている。
俺がここに来たのは単に目の前に立つ一つの柱に用があったからに過ぎない。
――南戸家之墓――
目の前の柱……否、墓石にはただそう彫られてあった。
「……悪い、戻ってくるのが遅くなっちまった」
墓石の前に立つと、自然にそんな言葉が出てきた――
そう、戻ってくるのが遅かった。
いや……三回忌も過ぎてしまっっている以上、《遅すぎた》の方が正しい。
せめて生きている内に……もう一度戻ってきて、あの歌声が聴きたかった――
「……紅蓮、永十から預かってるモノがある」
背後に居た聖五の声が耳に入る。その声に誘われるように、俺は振り返った。
「預かってる……モノ?」
一旦家に戻って荷物を持ってきてたと思ったら……それを取りに行ってたのか――
「お前宛のメッセージと……歌だ」
歌? そんなモノ……どうやって届けるんだ? どこかに録音でもしてたんだろうか?
「まぁ、まずはメッセージから読め」
そう言いながら、聖五は持ってきていた荷物から便箋を取り出して、俺に手渡した。
便箋の封を切ると、中には一枚の紙……手紙が入っていた。
それを広げ、視線を最上段に移そうとした時、シンクが覗きたそうに見ている視線を感じて、紙を持つ位置を少し下げる。
それからもう一度、最上段の一文に視線を向けた。
――――紅蓮さんへ
この手紙は俺が死んだ時の事を仮定して聖五さんに代筆してもらってるッス。つまり遺書って奴ッスね。
コレを書いてもらっている時点では俺は生きてるのに、コレを紅蓮さんが読んでる時には俺はもう死んでるんッスよね。
なんか不思議な気分ッスね。と、話が早くも脱線しちゃったッスね。
まぁこの状態じゃ、遅かれ早かれ死んじゃうんッスけど、それでも少しでも長く生きていかったッス。
こんな事考えても無駄ッスけど。もう一回紅蓮さんに会いたかったッス。
って、まだ会う前に死んじゃうって決まった訳じゃないッスけど。
因みに、これ書いてもらってるのは完成させた後ッス。
何の話かはこの手紙を読み終わった時に聖五さんに訊けば分かると思うッス。
え? もう半分も喋っちゃったッスか? おかしいッスね、もっとたくさん書く所なかったッスか。
って、聖五さん、ここまでメモしなくていいッスって。
えっと、それじゃあ、この紙も残り少なくなってきたらしいッスから、要点だけ言わせて貰うッス。
紅蓮さん、約束を守れなくてすいませんッス。紅蓮さんは戻ってきてくれたのに俺は夢を掴むって約束を果たせなかったッス。
でも、約束を果たせなかった代わりに完成させたッス。一曲、紅蓮さん達に届ける歌が。
って、読み終わってから聖五さんに訊いてくださいって言った意味がないッスね。
作詞も作曲全部一人でやった曲ッスからおかしなところもあるかも知れないッスけど、紅蓮さんの心に残るような歌になれば嬉しいッス。
ホントは、こんな手紙書かずに自分の声で伝えたかったッスけど、無理だと思うので、今のうちにメッセージを残しておくッス。
もし、紅蓮さん達が時々でも曲を思い出して口ずさんでくれたなら、俺はそれで満足ッス。
多分それはこの世界で最高の栄誉ッスから。だって、他にきっといないッスよ、この世界以外の世界に自分の歌を伝えた人なんて。
後、贅沢な話ッスけど、歌を口ずさんだ時にでも俺や、この世界の事を思い出してくれると嬉いッス。
えっと、もう手紙に書くスペースがないらしいッスので、ここまでにしておくッス。
変な感じの手紙になったッスけど、俺が伝えたかった事は全部歌にしたッスからコレでいいッス。
それでは、俺が作った最期の歌、よかったら覚えていてください。
2009/01/23 南戸 永十――――
黙読(よ)み終わって、静かに手紙を閉じた。
ついさっきまでそこに居たかのように、あの声が頭の中に響く。
だけど、もうあの声を直に聴ける事は二度とない。
だけど、それでも――俺は、彼の想いが篭った歌をその歌詞を、聴きたかった。
「……聴かせてくれ、聖五」その一言に、聖五は頷いた。
そして、持ってきていた荷物から、二枚に折られた紙を取り出し、その紙を広げて片手で持ち、背筋を伸ばした。
その姿勢は、まるで合唱団の一員かの如く――
「って……永十君の声を録音してるんじゃないのかよ!」
俺がこの世界に居た時でも、手の平サイズの再生機器があったから再生機を持ってきてると思い込んでた。
「コレも永十の望んだ事だ。機械を通すよりも、直に歌を伝えたいってな」
――分かる気がする。自分の想いを詰め込んだ言葉を、伝えたかった人に届ける。
そこに、機械を挿むのは、何かが違う気がする。だけど、それは自分が直に伝える事が出来るなら、の話。
他人に任せて良い事じゃない。だけど、自分が信頼するする者になら、或いは――
「そっか……わかった。それじゃあ改めて……頼む」
「言われなくても、ちゃんと伝えてやるよ……アイツの、想いを――」
聖五が瞳を閉じ、大きく一度深呼吸して、瞳を開く。
そして、視線を手元の楽譜に視線を落とし、直ぐにこちらに視線を上げて、詠い始める。
そして俺は……想いが込められた歌を聴いた。
――――
想いが込められた歌だった。
想いの託され歌だった。
其れは誇りに満ちた歌だった。
其れは優しさに満ちた歌だった。
其れはただただ、想いに満たされた歌だった。
心に響く其れは――
心に刻み込まれるような其れは――
忘れられる事の無い、消し去る事のできない其れは――
――其れは約束の歌だった。
「……どうだった」
歌が終わり、聖五が俺に、その後ろに居るシンクに問いかけてくる。
其れは涙が出るような、感動できる歌ではなかった。
でも、それでも――
「何のひねりもない感想だけどさ……いい歌だった。多分、ずっと、俺はこの歌を忘れない」
――其の歌は確かに心に俺の心に刻まれた。
「私も、忘れません。ずっと、忘れません」
「そっか、それなら……アイツも満足してるさ」
そう言って、聖五は空を見上げた。
そのまま、1〜2秒空を見てから、視線を下ろして俺の方を見た。
「紅蓮、お前、楽譜なんて読めないだろ?」
……突然、何を言い出すんだろうか、コイツは。
「そうだな、俺はそんなもん読めない」
別に隠す必要も無いので素直に答える。
すると「なら、この楽譜、俺が持っとくけど……いいよな?」と、言った。
その聖五の手に握られているのは永十君のあの歌の書かれた楽譜。
俺には読めないし、それに、この世界の物質である以上、宮殿のある世界には持って入れないだろう。
「あぁ、お前が持っててくれ」
「よっしゃ、決まりだな。……んじゃせっかくここまで来たんだし、今更だけど墓参りでもやって行こうか」
「あぁ、そうだな」
っと、そういえば、父さん達の墓にも参って来ないとな……場所はここじゃないけど、明後日まで居るんだ、問題は無いだろう。

<SCENE100>――夕方
帰りのHRが終わり、教室から生徒が流れ出ていく。
に、しても……久しぶりに学校に来たと思ったら、卒業式の準備と練習だけしかやらないなんて……
休み時間は休み時間で、休み続けた間のことを聞かれるし……大変だった。明日は明日で卒業式の予行だし……
そんな事を考えている間に、教室から徐々に人が減っていく。
もっとも、俺は翔ねぇに話があるので残っているだけだが。
事前に言っておいたので、翔ねぇが勝手に教室を出て行くなんて事も無いだろう。
しばらくして、教室には、俺と、叶と翔ねぇ以外には誰も居なくなった。
「それで、話って何よ?って言うかホントに十二日間も何してたのよ? 進学試験の勉強とかしてないんじゃないの?」
確かに、翔ねぇの言うとおりだが、まぁ進学なんてしないんだからしてなくても問題は無い。
「えっと……言いにくいんだけどな、翔ねぇ。俺等は進学試験は受けない事になったんだ」
その一言に、翔ねぇが食って掛かって来る。
「はぁ? 何言ってんのよ、今更就職なんて出来ないわよ? 何、それとも二人そろってプー太郎にでもなる気?」
まぁ、確かにこの時期にやっぱり進学しない、なんて言えば、普通に考えればプー太郎しか道は無い。だけど――
「大丈夫、仕事はちゃんとある。すげぇデカイ仕事が――」
それは世界を、そこに居る人々を護る壮大な事。
でも、それをするのは大層な理由からじゃない。
ただ……叶を護りたくて、この世界に居るみんなに迷惑を掛けたくなくいだけ。
たったそれだけのちっぽけな理由だけど――
母さんがそう願って名付けてくれたように。兄さんと約束したように。
何にも縛られずに、大空を舞うように……やりたい事をやって生きて行く、そんな俺を動かすにはそれで十分だ。
「まぁ、アナタ達の人生だから私がとやかく言うつもりは無いけどね。それで、どんな仕事なのよそれ?」
「悪いけど、言えない」
その一言で、翔ねぇが眉間に皺を寄せた。
言ったところで、信じないだろうし。と、言おうとした瞬間。
叶が俺に代わって「言っても信じないと思いますし……」と発した。
「あっそ。まぁいいわ。さっきとやかく言うつもりは無いって言った所だし」
呆れたようにそう言った翔ねぇの表情はいつものものだった。
「……ありがと、翔ねぇ」
「お礼言われる立場じゃないんだけどね、私は。それでさぁ……翼?」
そう言った翔ねぇの表情は何故か笑顔になっていた。
――あぁ、そうか……忘れてた。誰も周りに居ないけど、ここは学校だったんだ。
「学校で《翔ねぇ》と呼ぶなとぉ、言ったでしょうが!!」
叫び声と共に、ハリセンが俺の脳天に叩き落され、景気のいい音を校内に響かせた。

――to be continued.

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