EternalKnight
<覚醒する者>
<SCENE092>――夜
電話で春樹さんが出してきた指示は、閉店時間になってから来る事、だった。
その為、今現在俺達はここ……まだ人通りの多い駅前に居る。
と、言うのもクオンさんが町を見て回りたい、なんて言ったのが原因なんだが……
何でも、久しぶりの故郷の世界を見て回りたいとか……
昔の面影なんてあるとは思えないが……800年も前の話だし。
因みに、時乃さんを含む退魔師の人達は、《混沌》との戦いの事後処理があるらしい。
……と、いっても書類関連らしいが。
それにしても……平日、それも月曜のこの時間のここは会社帰りの会社員が多い。
そして人が多いことによって何より困るのはやはり目立つ容姿と服装だろう。
そもそも、巫女服だけでも目立つのに、まだ小学生程度の背丈だし。
赤い髪の男女ってだけでも目立つのに、ペアルックの紅白の服着てるし。
コレに比べたら叶の白い髪は目立たない方だろう。
そして、その四人と共に居る、いたって普通の姿の俺と聖五さんも周りから見れば異質に見えるはずである。
つまり周りから見れば変な集団に見えるわけである。
「やっぱりあんまり変わってないね、お兄ちゃん」
「そうだな……なぁ、聖五。この四年で特に変わった場所とかあるか?」
「いや、特には無いな」
と、言うかこの人達は視線を気にしないんだろうか?
「すごい人通りね〜……でも文明のレベル的に見れば中の上くらいかしらね、人が多いのは土地が狭いからかしら?」
つーかクオンさんって、この世界の、それも800年ぐらい前の出なんだよな……ホントに?
文明のレベルって……いや、いろんな世界に行ってるんだから、そういう所も目に付くんだろうけど……
いや……そんなことより、俺と叶はもうすぐこの世界を離れる事になるんだ。
今の内に……この世界を見ておかないと――
紅蓮さんの話だと、最低数年は戻ってこれないらしいし……
それに、長期の滞在は好ましくないのだ……だから、しっかりとこの目に焼き付けておこう。
この風景を、この世界を――

<SCENE093>――夜
春樹さんに指定された時間……閉店時間になって、俺達は『春音』の前に居る。
何度もこの店には足を運んだが、閉店時間を過ぎた状態を見たのは初めてだった。
流れるような字で書かれた看板が照らす証明も消え、看板がろくに見えない。
「へぇ……ここが春樹の構えた店か……そういえば聖五、春樹のアレは治ってるのか?」
店の入り口を見据えながら、紅蓮さんが問いかける。
「まさか……そんなわけ無いだろ? そんな簡単にあの性癖が治るわけねぇって」
少々……いや、かなり呆れた風に聖五さんが切り返す。
「まぁ、俺も最近はあんまり見ないけどな」
「……なら見るのは久しぶりなんだな、俺もお前も」
「そうなるなぁ……」
――二人して、なんの話をしてるんだろうか?
「それにしてもグレン? 何で私まで付いていかなきゃならないの? むしろ私が居ない方が盛り上がるんじゃない?」
確かに、クオンさんは居ても話す事が無いと思うのだが……
「いや、そんなこと無いです、絶対に盛り上がります」
確信を持った表情の二人は声を重ねて疑問を切り替えしていた。
「そんなものなの? シンクちゃん?」
「大丈夫だと思うよ、私が小学校を出るぐらいまでは毎日だったし」
……? 何のことだ?
小学校を出るまで……毎日?
瞬間、四年前のグレンさんの言葉を思い出した――
『春樹、そのまま冬音と結婚して……』
あぁ……そういう事か。確かに、クオンさんが来れば盛り上がるよな……特に一人。
でも、少なくとも俺は、春樹さんがそうであることを自分の目で確かめたことは無い。
「さて、それじゃあ入るか」
そう言いながら、聖五さんが店の入り口のドアに手をかけて、引っ張った。
勿論、鍵などはかかっておらず、ドアはすんなりと開く。
すると、来客を知らせる為に付けているだろう鈴がゆれ、音が鳴った。
そして、最初に聖五さんが中に足を踏み入れ、叫ぶ。
「おーい、来たぞ春樹に冬音ー!」
――その声が真っ暗な店内に響いた数秒後、廊下を駆ける音がして、すぐに店の中に明かりが付いた。
そして、さらにしばらくすると、店の厨房の奥から冬音さんが現れた。
「久しぶりねー紅蓮に真紅ちゃん……って二人とも全く変わってないわね……」
「まぁ……成長が止まったようなもんだからな」
その答えに冬音さんは「そういえばそうだったわね」と頷きながら今度は俺……いや、隣に居る叶に視線を移す。
「それにしても……ここに居るって事は、叶も聖具持ちだったの?」
「あぁ、いえ違うんです、冬音さん。別に私が持ってるわけじゃなくて――」
若干言いよどんでいる叶を無視してクオンさんが前に出ながら告げる。
「その子が聖具そのモノなのよ。シンクちゃんとはちょっと違うけど、似たようなモノよ」
瞬間、冬音さんの動きが止まった。
――が、すぐに元に戻りクオンさんを指差しながら口を開いた。
「その子……誰?」
まぁ、確かにそうなるだろう。見知った顔の中に一人、知らない顔が混ざっているのだから。
「この人は俺の先輩に当たる人で――」
そこでさらにクオンさんが前にでる。
「トキノ クオンよ。ヨロシクね、冬音さん」
そう言いながら、笑顔でクオンさんは手を差し出す。
「短い間だろうけど、こちらこそヨロシクね、クオンさん」
差し出されたその手をとり、にこやかに冬音さんもクオンさんに挨拶を交わした。
クオンさんとつないだ手を離すと、すぐに紅蓮さんと聖五さんの方に向き直り――
「それで……一つ聞いていいかしら? 聖五に紅蓮?」
呆れたような顔で紅蓮さん達を見つめた。
「別に? どうしたんだ?」と、ニヤつきながら紅蓮さんが返す。
その表情に肩をがっくりと落としながら「あんた達……わかってて連れて来たでしょ?」
そして、その質問に――
「「勿論だ」」
――紅蓮さんと聖五さんは同時に、一片の狂いもなく答えた。
「まったく……少しは私の方にも気を配って欲しいわ……」
そう、冬音さんが言い終わったたのと同時に、店の奥から春樹さんが現れた。
「おう、久しぶりだな、ぐれ……ん」
瞬間――春樹さんの目の色が変わった。
そして突然俯き何かブツブツと呟く。
――が、次の瞬間、地面を蹴り跳んだ。
文字通り、クオンさんの居る場所に目掛けて、一直線に跳躍した――
――のだが。
「落ち着けぇぇぇぇぇ!」
ソレを上回る速度で跳躍した冬音さんに空中で打ち落とされ、地面に叩きつけられるように堕ちた。
そして、倒れた体を上半身だけ持ち上げて、こちら……いや、クオンさんに向けて手を伸ばし、呻く。
「ロリっ……子。巫女服の……ロリっ子がそこに居るのに……届かない……なん……て――」
そして、その言葉を残してガクンっと、春樹さん完全に地面に崩れ落ちた。
「「「……」」」
俺と叶とクオンさんは呆然とその光景を見ていた。
つーか、春樹さんってこんな人だったか?
それにしても……なんて超人的な動きしてるんだよ……
いや、あの二人も元聖具所持者でオーラの扱いを知ってるからこそ可能だったんだろうけど――
「……相変わらず、いや……むしろ酷くなってないか? 春樹の奴」
紅蓮さんが苦笑いしながら倒れている春樹さんを見下ろしている。
「うーん……仕事中はお店に小さい子が来ても襲い掛かったりしないんだけどね……目線がおかしいけど」
うんざりする様に、ため息を吐きながら冬音さんは言った。
「そこら辺はちゃんとわかってるんだな、こいつも」
「と、言うか、よっぽどの事じゃないとあぁまでならないわ、現に、シンクちゃんには反応しなかったでしょ?」
「ソレはまぁ……確かに。んで、よっぽどって言うと?」
「そうね……まず紅蓮が居た頃は、少なからず真紅ちゃんも射程内だったけど、今は小学生ぐらいじゃないと反応しないわ」
いや、ソレは悪化してるって言うんじゃ……
「つーかそこまで行くとペドフェリアだろ……既に」
呆れながら聖五さんも春樹さんを見下ろしている。
つーか紅蓮さんも聖五さんも見下ろす目線が明らかに友人に向けるモノじゃなくなってるし……
「それで……どうする? コイツ。起きたらまた暴れださねぇか?」
「それもそうねぇ……んじゃ、縛っとこか?」
いや……冬音さん。一応アンタの旦那なんだから……
俺としては別に異論は無いけど……いろいろと危ないし。

<Interlude-グレン->――夜
で、春樹を除き、全員が席に座る。
無論、春樹は縛られたまま地面に伏したままで放置されたままだ。
「しっかし、冬音……お前、よく春樹と結婚する気になったな?」
「いいじゃない別に、アレさえなければホントにいい人なんだから……」
そんなもんなんだろうか……
「ところでグレン、一つ聞き忘れてた事があったな――」
「ん? なんだよ、聖五?」
「確かに、春樹のロリコンは治ってなかった……だけど、お前のシスコンも治ってないだろ? つーかむしろ酷くなってるだろ?」
くっ……やっぱり覚えてやがったか……
「ちょっと、一体どういうことよ?」
座っていたイスから立ち上がり、冬音が叫ぶ。
「いや、聖五が勝手に言ってるだけだから「グレンが自分では言い出しにくいみたいだから、私が代わりに教えてあげるわ」
「って、ちょっと待て!」
あわててクオンさんを取り押さえようと立ち上がるが――
「すいません、グレンさん。やっぱり真実は知っておくべきだと思うんです」
すぐに、翼に羽交い絞めにされる。
クソ、相棒、翼を振りほどくぞ! 力を貸せ!
(自業自得であろう、素直に現実を受け止めよ)
「詳しくお願いしますね、クオンさん」
「だぁぁぁぁ! ちょっと待て!」
くそっ、こうなったら、俺だけででも、翼を振りほどく――
この四年間、鍛えた俺の力を受けてみろ!
「ぉぉぉぉおおおおおお!」
――これならいける! やっぱり鍛えてたぶん俺のほうが強い!
「っ……叶!」
翼が叫んだ瞬間、形勢は一気に逆転し、俺は成す統べなく押さえつけられた。
と、言うか背中越しにとてつもないエーテルを感じる。
「だぁぁぁ、翼! てめぇ聖具の加護なんて使うんじゃねぇ!」
「コレも真実を知るためです……それじゃあ、クオンさん、続きをどうぞ」
「と、言うか……紅蓮。そこまで嫌がってると、もう自分で暴露しちまったみたいなもんだぞ?」
――――あ。
とりあえず、もう無駄なので抵抗はやめた……羽交い絞めにされたままだけど――

<SCENE094>――夜
クオンさんの話が終わる。
曰く、紅蓮さんは妹さんと色々やってしまったらしい。
まぁクオンさんの話では別に近親相姦がいけないという考え方は無いらしい。
少なくとも、色々な世界から人が集まるんだからソレも納得は出来る。
だけど……
「俺の憧れてた人ってホントにこんな人だったっけ?」
クオンさんの話が終わり、俺が紅蓮さんの拘束を解くと、紅蓮さんは店内の隅のほうにうずくまってしまった。
ソレを見て疑問に思った事が自然に口からこぼれ出た。
「いや……まぁ、お前が紅蓮と一緒にいたのは一日だし、記憶って美化されるものだし」
「……そうですね」
紅蓮さんはうずくまったまま、こちらを一切見ずに小さく言う。
「お前等……酷すぎるぞ。ソレにさぁ、永遠の騎士の中では別におかしな事じゃ無いんだって……」
ソレもあくまで、その人達が居た世界ではそういう縛りがなかったから、そうなっているだけな訳で……
「近親相姦が悪い事って考え方を根本的に持ってない人たちの話だろ、それは」
「そうですね、聖五さんの言った通り、今のクオンさんの話をまとめるとそういう事になります」
「……なんだよ、畜生。せっかく助けに来たのになんだよ、この様は……」
なんか見てて哀れになってきたなぁ……
そして――
「ぅ……うぅん」
今度は何かの呻き声が聞こえてきた。
「――今度はなんなんですか?」
そう言いながら、視線を動かし呻き声の発生原因を探す。
「あ〜……どうやら春樹が意識を取り戻し始めてるみたいだ」
「なんだ、それだけですか……」
「つーか、だんだん俺と春樹の扱いがひどくなって無いか、翼?」
壁際でブツブツと紅蓮さんが呟いている。
「そんなことありません。別にどんな趣味を持とうが自由ですし」
まぁ……ただ、俺自身が理想としていた姿と、違いすぎていただけの事。
「っ……なんだぁ? コレは」
と、いつの間に完全に春樹さんの意識が覚醒していた。
「何で俺は縛られてるんだ……確か目の前に巫女ロリっ子が居た筈じゃ……」
あ〜……またなにやらブツブツ呟いてる……
と、言うか……縛られて倒れてるから周囲の状況が見えないんだな……
だから、ああやってすぐ傍で立っている阿修羅の姿が見えてないんだ。
と、言うか阿修羅が心なしか震えているように見える。
「そうか! お兄さんを縛っていじめて――」
そこで、何かに耐えかねた阿修羅が、その拳を振りかぶり――
「少しは黙れやぁぁぁ!」
視認出来そうな程のエーテルを纏った阿修羅の拳が、春樹さんの背中に打ち込まれた。
同時に、何かが折れたようないやな音が聞こえた気がしたが、きっと気のせいだろう。

――to be continued.

<Back>//<Next>

34/39ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!