EternalKnight
<勝利〜一時の休息〜>
<Interlude-グレン->――昼
氷河の棺の内に、翼を……翼に取り付いた《堕天》を閉じ込めて数分。
別に、特殊な概念を含んでいる攻撃ではなく、単に凍らせてるだけなので、長い時間閉じ込めておく事は期待できないが、十分な時間稼ぎにはなった。
氷河の棺の崩壊までは俺から見て後数分が限度といえる。
さて、棺から出てきたらどうして時間を稼ごうか……
(ねぇ、お兄ちゃん?)
どうした? シンク?
(さっきまで黒い羽だったのがなんだか蒼白いのになってるんだけど……あれってどういう事なのかな?)
そう言われて、気が付いた。
確かに、氷河の棺の中に閉じ込められている翼の羽……聖具だろうが、その色と形状がさっきと変わっていたのだ。
よく見ると、両腕も白に蒼のラインの走った手甲に覆われている。
しかし、黒から白って……それが同化されかけから元に戻った事をあらわしてるなんて事はさすがに無いよな……
と、言うか白と黒って……漫画とかゲームじゃないんだから……そんなわざとらしい色になるか? 普通?
(不味いな……)
……どうしたんだ、相棒?
(いや、あの聖具から感じる力がSSSクラス並に膨れ上がっているのだが……)
おいおい……笑えない冗談はやめろよ。
(冗談など言うか……もしこの変化が、翼が勝った事の証意外なら……我等はここで終わりかも知れぬ)
いや……『かも』じゃなくて完全に終わりだ。
たとえ成り立てとは言えSSSクラス相手に戦って、勝てるはずが無い。
その事は4年前によくわかった事だ――
……いや、待て。
そもそも、SSSクラスなら簡単にこの棺からも脱出可能な筈――
つまり、どちらが勝っていたにせよ……疲弊してるって事……なのか?
そう思考していると――
「おーい、紅蓮ーっ! 多分それはもう翼が《堕天》に勝った後だぞー」
――聖五の叫び声が聞こえてきた。
って、なんでアイツはそんなに確信持って言うんだろうか。
色々考えてた俺がバカみたいじゃねぇかよ……
(なぁ……相棒? もし彼の言っている事が正しいのであれば、早く翼を出してやったほうがいいのではないか?)
……そうだな。 まぁ、何もせずに待ち続けるよりは、少しでも行動しておくべきだよな。
さて、そうと決まれば……いくぞ、シンク?
(任せて、お兄ちゃん――)
「――MeltingSword」
詠唱と共に、紅の剣は白い炎に包まれる。
そうなのだ、氷河の棺はあくまで凍らせる技。
つまり……自分の意思で解除できない。
早い話が中のモノを取り出す為には、溶かすなり壊すなりしなければ行けないのだ。
挙句、力技で粉砕すると、中のモノに損害を与えるかも知れない――
つまり安全に取り出すには溶かすしかないのだ。
まぁ、俺は溶かす為の力を持っているのだが――
「さて……やりますか」
呟いて、俺は白い炎に包まれる紅の剣を振るった。

<SCENE089>――昼
視界全てを黒が覆っている。
「――さ。――、翼ってば」
声が、聞こえる。誰かの声が――
「かな……え?」
ぼんやりとした意識の中で、声の主の名前を呼ぶ。
そして、視界を黒で覆っていた原因……目蓋を開く――
そこには――
「おはよ、翼。気分はどう?」
そんな事を言ってる叶の顔があった。アップで。っていうか近い。
そして、後頭部にやわらかい感触。
コレが意味するものは……すなわち『膝枕』だ。
――あ〜誰かに膝枕してもらえる日が来るなんて夢にも思ってなかった。
つーかそんなものは漫画とかアニメの世界、或いはモテ男限定のイベントだと思ってた。
だが、だがしかしだ。現に今こうして、叶が膝枕してくれている。
嬉しい、かなり嬉しい。
でも、今はそれどころじゃ無い。でも、話をするだけならこのままでもいい筈――
「大丈夫、なんとも無い……けど、あの後どうなったんだ?」
そう、俺は確か《混沌》をぶった斬って勝ったと叶に言われてから……意識を失ったのだ。
「あぁ、大丈夫、今の翼は精神世界じゃなくてちゃんと元の世界にいるわ」
「……そっか。じゃあ《混沌》は――」
「うん、完全に消滅してるわ。取り返したのよ、翼の体を――」
「なら、コレで一見落着ってわけだな?」
「えぇ」
満面の笑みで、叶が相槌をうった、その時――
「……いつまでそうしてるつもりだ? って言うかそう言うのは誰も居ない時に二人でやれ」
不意に、聖五さんの声が聞こえた。
「おいおい、聖五。彼女が居ないからって、そうカリカリすんなよ」
――ぇ?
「うっせー、ちゃんと居るよ。俺にも彼女くらい……って言うかお前の方が居ねぇんだろうが」
「いや、俺には……いや、なんでもない」
今の声……まさか――
「……どうしたんだ、紅蓮?……まさかお前にも――」
「それがね、聖五君、グレンにはシンクちゃんがいムフゥ――」
紅蓮……さん?
「なっ……紅蓮。お前――」
「ちょっと待て、聖五。それはきっと誤解というかなんと言うか――」
いや、そもそも、もう一人の声は……誰のだ?
「言いよどんでる時点で怪しいわ、このシスコンが!」
名残惜しかったが、急いで膝に頭を預けていた体を持ち上げる。
「あぁ、そうだよ。シスコンだよ。悪いか、畜生!」
そして、視界に入ったのは何故か校舎の屋上の風景と三人。
「悪いわ! お前等血の繋がった兄妹なんだぞ!」
四年前と……あの夢と変わらない姿の紅蓮さんと、なにやら言い合っている聖五さん。
「何言ってんだよ、俺はもう永遠の騎士になって人間じゃねぇからそんなの関係ないから別にいいだろ!?」
そしてもう一人……小学三、四年生ぐらいに背丈で巫女服を来た少女。
その顔にはどこか見覚えがあるような気がした……
「よくねぇよ。つーか逆ギレか? 人間じゃないとかそれ以前の問題だっての!」
そしてその少女はなぜか、紅蓮さんに口元を押さえられている。暴れてるけど――
「お久しぶりです、紅蓮さん」
俺の声に、紅蓮さんと聖五さんの会話と、少女の動きが止まる。
「お……おう、久しぶりだな、翼。元気にしてたか?」
「はい、紅蓮さんの方こそ、元気でしたか? 結構大変な事してる思うんですけど」
「あぁ、そんなこと無いさ。今までは研修期間みたいなモンだったし、今回が俺の初仕事だ」
「そうなんですか……ところで、紅蓮さん?」
「ん? どうした、翼?」
「その人……誰ですか?」
言いながら、紅蓮さんに口を押さえられている少女を指差した――
「あぁ、お前にはまだ紹介してなかったな、この人は――」
と、そこまで紅蓮さんが言った瞬間に、紅蓮さんの拘束から逃れ満面の笑みでその少女が口を開いた。
「クオン、トキノ クオンよ。ヨロシクね、翼君」
「あれ? どうして俺の名前を?」
「あぁ、さっきカナエちゃんから聞いたから」
――どうやら俺が意識を失っていた間に色々話をしていたらしい。
「あれ? そういえば、武さん達はどうしたんですか?」
そうだ、確かあそこには武さんを含めて8人の退魔師が居たはず……いや虎一さんを除けば七人か。
「あぁ、退魔師なら事後処理を済ませてもう撤収してるわ」
「事後処理……ですか?」
「えぇ、戦死者と負傷者を回収して帰っていったわ……今回は建物とかの被害はなかったみたいだから」
「戦死者……結局何人だったんですか?」
「四人よ。後負傷者は二人……君が居たとは言え、幻想種相手にコレだけの被害なら安いものよ……」
何か思い出したように、クオンさんは目を瞑った。
「そうですか……」
「――って言うか退魔師って何だよ」
「って、紅蓮さんは知らないんですか?」
「あぁ、なんか漫画かなにかで聞いた事はあるけど」
――じゃあ、何で目の前の少女、クオンさんは当然のように知っているんだろうか?
「あれ? グレンに教えてなかったっけ? 私、この世界に居たときは退魔師やってたのよ」
この世界に居た時は退魔師だった?
「いや、だから退魔師って何なんですか?」
瞬間、少女の台詞を思い出す――
『クオン、トキノ クオンよ』
彼女の名前。そう、先程の一言と一瞬頭によぎったどこかで見たような気がする顔……ここから導き出される結論は一つ――
「うーん、何って言われてもねぇ? 私説明巧くないのよね〜」
いや、別にそれが分かったからどうってわけでもないんだけど……
「じゃ、別にいいです。重要な情報じゃなさそうですし」
「あぁ、そう。ならいいいんだけどね〜」
って、言うか紅蓮さんてあんな人だったっけ?
なんか幻滅だなぁ……
「って、言うか翼が起きたら家に来る様にさっきその退魔師とやらに言われてなかったか?」
「あら? そうだったかしら?」
「って言うかそういうお前はその家とやらが何処にあるかしってんのかよ、聖五」
「いや、知らないけど……翼は知ってるだろ?」
突然話を振られて多少驚きはしたが、問いに答える。
「あ、はい。知ってますけど――」
「それじゃあ、道案内ヨロシク」

<SCENE090>――夕方
で、黒崎邸に辿り着くと、雫さんが待っており、俺達を地下会議室まで案内してくれた。
それにしても、ここに来る途中、妙に視線が痛かった――
いや、巫女服の少女と紅髪で白と紅のみで構成された服を着込んでる男女が一緒に居るんだし当然といえば当然なわけだが――
ついでに言うと叶の白髪も目立ってるとも思う……
――が、この際気にしない。
時間帯的に買い物に来ているおばさんがたくさん居て、なにやらひそひそしてたけど気にしない。
で、地下会議室……もとい決闘場。
そこには既に武さんと時乃さん、それに蓮さんが待機していた。
逆に言うなら、その三人しかいなかったのだが。
さらに蓮さん以外の二人は怪我の跡があった。
武さんの左腕は包帯で完全に覆われて、時乃さんは右肩が包帯で覆われている。
……蓮さんと雫さんには見たところ傷などなかったが……
「今回のあなた方の活躍、心より感謝申し上げます」
突然、深々と武さんが頭を下げる。
「何言ってるんですか、武さん。顔を上げてください。俺は自分でやらなきゃいけないことに始末をつけただけなんですから」
「……そう言って貰うとありがたい……だが、本来人外は退魔師が狩るモノ、自分等の不始末を片付けてくれたのだから、少しでも感謝の意思を表したい」
そこまで武さんが言ったところでクオンさんが一歩前に出て口を開く。
「そんなの別にいいのよ、堅苦しいわね。私の代の退魔師は使えるものなら何でも利用してたんだから、別に何でもいいでしょ?」
「あなたは? それに私の代って……」
「私? 私の名はクオン。今からみて何代前かは知らないけど、時乃の退魔師よ」
「時乃……久遠?」
一瞬、何のことだかわからない、といった表情の後すぐに武さんの顔が驚きに変わる。
「あら、やっぱり現役の退魔師さんなら知ってるみたいね」
「でも何故あなたが生きて……いや、話に聞いている上位の聖具との契約という奴ですね?」
「ご名答、頭の回転が速いみたいで助かるわ」
「あぁ、ホントだ……よく見たら小さい頃の茜みたいねぇ」
と、そこで雫さんが二人の会話に割り行ってくる。
「って、ちょと、いきなり何?」
「茜と私とで並んでみれば兄弟に見えなくもないかも〜」
いや、まぁよく喋る人だし、アレだけの間の会話に堪えれなかったのだろう……
「それじゃあ、ちょっと借りていくわね、武君」
そう言いながら、答えを待たずに、というか既にクオンさんを引きずっている。
「ちょっと、ちゃんと行くから引っ張らないでって」
「OKそれじゃあ早速記念撮影に行きましょう、はい決定。茜も早く、ほらほら」
……
「それじゃあグレン、私はきねんさつえいに行ってくるから、あなたは彼に退魔師について聞いてなさい、それじゃあね〜」
とか言って、雫さんの後について言ってしまった。
って言うか多分写真撮影が何か分かってない気がする……

<SCENE091>――夕方
で、退魔師についての説明は終わり、何枚撮ったかは知らないが、クオンさん達も帰ってきた。
と、言うか三十分も何をしていたんだろうか? 撮影組は……
俺もさっき聞いたのだが、クオンさんは退魔師の中ではホントに有名な人だった。
五人で幻想種を撃破したメンバーの中に彼女も入っていたらしい。
さらに、最年少という事もあり、生存者とされる一人に次いで有名なのだそうだ。
「さて、これからどうするんだ? 紅蓮、翼」
「俺は春樹や冬音、それから永十に会いに往こうと思ってる、約束もあるし」
そうか、紅蓮さんはまだ知らないんだよな、永十さんの事……
「紅蓮、永十は……もう――」
――――。
沈黙が、深い沈黙が訪れる。
誰も口を開こうとしない。事情を知るはずも無い武さんも、雰囲気で察したの、沈黙を守っている。
そして――
「……そうか、悪い」
沈黙を破ったのは、紅蓮さんだった。
「――駄目だ駄目だ、落ち込んでも何にもかわらねぇって。じゃあさ、春樹と冬音に会いに行こう」
その紅蓮さんの言葉で、雰囲気が元に戻る。
「あぁ、そうだな」
「それじゃあ、早速行こうぜ?」
「――まぁ待て、今から行っていいか電話してみる」
そういって、聖五さんは携帯を取り出した。

――to be continued.

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