EternalKnight
<混沌開放>
<SCENE078>
白と黒の刃が、甲高い音を響かせながらぶつかり合う。
打ち合う剣戟は一進一退。
攻めれば、隙を突かれて攻め込まれ、その隙を突いてこちらが攻めに転じる。
どちらも同じ程度小さな切り傷があるが、どれも致命傷には程遠い。
高速で繰り広げられる剣戟は、どちらも決め手を欠く不毛な攻防。
だが、真の意味では、切り札を持つ《堕天》が圧倒的に有利な状況。
……急いでくれよ、叶。
そう思考しながら俺は剣戟を続ける。
だけど、この状況は長くは持たない。
《堕天》がこの打ち合いに飽きて本気を出されれば終わるのだから……

<Interlude-叶->
意識を深く自分の中に落とす。
力……私自身の中にある力。……それを、理解できない筈がない。
自分の知識の奥底に眠る力の行使方法と、その力を調べる。
――飛翔。
空を飛ぶ力を与えてくれる、私の元の名と同じ名を持った力。
同時に、私と言う力の原点ともいえる力。
――光の嵐。
私自身の階位が上がった事により強くなった力。
文字通り、光を嵐のように扱う力。
名前は変わったけれど、昔の名前の面影は残ってる。
――旧き印。
名前は変わっていないけど、私の階位の変化によって増した力。
私達を守ってくれる、聖なる印。
――魔を断つ剣。
これも、私自身の階位の上昇と共に強くなった力。
この力も面影を残し名前が変わってる。
今も翼がその剣を握り《堕天》と戦ってる。
――■神■■。
やっぱり何も分からない。違う、理解出来ない。
私の中にあるのに、私に理解できない力。
そんなのはおかしい。どうして理解できないの?
自分の中にある意識だというのに知識が足りず理解できない……
じゃあ、その足りない知識なんてどうやって補えばいいの?
『まだなのか? 叶!』
――翼の声が聞こえた。
……そうよ、急がなくちゃ、翼が待ってるんだから。
(ごめんなさい、翼。ぜんぜん解らないの、一体どんな力なのか。でも、なんとかするから)
『……そうか。でも調べるのは、もういい』
(どう……して?)
『時間切れ……だ、兄貴との約束は果たせそうにない』
(それって――)
つまり《堕天》が本気を出した、と言う事――
(でも、最後まで、諦めないんでしょ? 翼!)
『諦めないさ……だけど、さっきまでで互角だったんだ。力が上がった以上どうにもならない』
(諦めないなら……まだ、希望はあるじゃない)
『それも、どんな力なのか理解できないじゃないか、理解できない力なんて使えない』
(そうだけど……諦めていいの! お兄さんとの約束は――)
『精一杯やってこれだ……どうしようもない』
(そんなの……翼らしくないわ。みんなを、私を守ってくれるんじゃないの!)
『俺は諦めない。でも、俺達の力じゃここが最後なんだ。最後までやって駄目だったんだ』
(そんなの、ないわよ……)
せっかく、翼と結ばれたのに……たったのこれだけど、終わりだなんて。
あぁ、どんな陳腐でありきたりでご都合主義な展開でもいい。
何でも、誰でもいい。私達を助けて――

<SCENE079>
鳴り響き続けていた剣戟の音が止む。
俺が止めた訳じゃない。《堕天》が大きく後退しただけ。
だが、それが意味するのは――
「もうそろそろ、飽きてきた……そろそろ見せてやろう、我が真の力を」
――ただの絶望。
まだなのか? 叶!
(ごめんなさい、翼。ぜんぜん解らないの、一体どんな力なのか。でもなんとかするから)
……そうか。でも調べるのは、もういい。
(どう……して?)
時間切れ……だ、兄貴との約束は果たせそうにない。
《堕天》の黒い羽が霧散して、禍々しい鎧のように組み変わっていく。
(それって――)
言うまでもなく、叶もわかったみたいだ。
頭部の漆黒の仮面は、額の位置に燃えるような第三の眸が現れる。
(でも、最後まで、諦めないんでしょ? 翼!)
諦めないさ……だけど、さっきまでで互角だったんだ。力が上がった以上どうにもならない。
(諦めないなら……まだ、希望はあるじゃない)
それも、どんな力なのか理解できないじゃないか、理解できない力なんて使えない。
(そうだけど……諦めていいの! お兄さんとの約束は――)
精一杯やってこれだ……どうしようもない。
――そう、もうどうしようもないのんだ。
(そんなの……翼らしくないわ。みんなを、私を守ってくれるんじゃないの!)
――そんなの、決まってる。
俺は諦めない。でも、俺達の力じゃここが最後なんだ。最後までやって駄目だったんだ。
(そんなの、ないわよ……)
――俺だってそう思う。
せっかく兄さんのおかげでここまで持ち直したのに、こんなところで終わるなんて、あまりにも忍びない。
だけど、俺達の力ではもう……どうする事も出来ない。
「待たせたな……翼。これが我が真の力だ」
それは漆黒。
三つの赤い眸でこちらを見つめる。あまりにも禍々しい鎧を纏った黒。
そして、どうしようもない程の差を感じる。
あまりに圧倒的な力の差。
「どうだ? クラスSSS《混沌》それが我が真の名。分かるだろ?……圧倒的な力の差が?」
「……どうして、翼型から鎧型に変わったんだ?」
「簡単な事だ、これほどの力を持ったのだ。今更貴様の聖具を力の原点とする必要がなくなっただけの事……最も、力の一部の知識は使わせてもらっているがな」
「そうか……」
「本来はこの内面世界でなくともこの姿になれるはずなのだが……貴様らの抵抗のおかげでここでしかこの姿では居れん」
つまり、外では《堕天》としての力しか使えないのか……
「さぁ、抵抗して見せろ……無駄だろうがな」
「抵抗は無駄だってことぐらい分かってるよ……だがな、諦める気は無い」
叶。聞いてるか?
(……うん)
俺の体にどれだけ負荷がかかっても構わない……出せるだけの力を出させてくれ。
(駄目、そんな事したら――)
どの道もう終わりなんだ……だから最後は悔いの残らないようにやりたい。
(……わかったわ、でも負荷をかけても、大して強くはならないわよ? 私は本来そんな力を持ってるわけじゃないし)
――問題ない。俺が最後まで足掻きたいだけだから……どんなに少しでもやれることはやっておきたいんだ。
(それじゃあ、いくわよ?)
瞬間、全身に力が満ちていくのが分かった。
……でも、ぜんぜん負荷はかかってないぞ?
(元に戻したときに一気に負担がかかるの)
そうか……
それなら、最後の一瞬まで全力でやれるな――
「ほう……まだそんな力があったか。だが無駄なことだ」
「やってみなきゃ、わかんねぇよ」
そう言って、俺は駆け出した。
右手には白い剣……魔を断つ剣を握って――

<Interlude-聖五->――昼
金属音が断続的に鳴り続ける。
俺が繰り出す限り無く洗礼された拳舞を、明らかに無駄の多い高速の剣舞で《堕天》が弾く。
それで互角。技術の差を基礎的な能力差で埋められる。
いや、そもそもこちらの目的は時間稼ぎだ……このまま続けるのは計算の内といえる。
だけど、もう力が残っていない……
このままでは時間を稼ぐ事すら出来なくなる。
かと言って、こちらから話しかけるのは――
「まだ、足掻くのか? いい加減諦めたらどうだい?」
――しめた、これで自然な流れで会話を続けさせれば……時間が稼げる。
「冗談言うな、俺は諦めるつもりなんか無い」
「貴様も抗うか……まぁ、どちらも我が敵ではないがな」
「……何の事だ」
「わざわざ言う必要も無いのだが……そうだな希望を持たせてやろう」
「……希望、だと?」
「今も我が内で、この器の所持者が支配権を取り戻そうと戦っている」
――翼が抗ってる?
「まぁ、じきにそれも終わる」
「……どういう事だ」
「分からないのか? 支配権を全て我が持つこの器の内で戦うのだ」
――つまり、周りの全てが敵って事かよ。
「だが、周りがどうでアレ、翼の力がお前を上回っていれば――」
「それこそ馬鹿な話だ。器の内のエーテルの六割以上を所持している我に、どうやって勝つことが出来よう」
「エーテルの差が、戦力の決定的な差じゃない事は俺とお前の戦いでも分かる。勝つ事は可能だ」
「貴様自身、我に勝てぬくせによく言う」
「そうだな、まずは前例を作らなくちゃ行けない」
そう言って、構えを取る。
(マスター喋って時間稼ぎと言うのは――)
翼が抗ってるなら話は別だ。
ところで、《聖賢》一つ聞きたい事がある――

<Interlude-グレン->
瞳を閉じて意識を落ち着ける。
久しぶりに戻る故郷。四年ぶりって所だろうか?
休暇で行きたかったんだが……まぁ仕事なら仕方ないさ。
「グレン、クオン、シンク、接続が終わったぞ!」
キョウヤさんの声が届く。遂に……この時が来た。
「……分かりました」
永遠者になって最初の仕事、大丈夫、俺になら出来る。
――さぁ、行こう。
(そう気張るな、もう少し楽な気持ちでいけ)
相棒……最近扱いを酷くしてるのに……俺を気遣ってくれるんだな。
(……意図的に酷くするな、意図的に。それとな、我等は一蓮托生なのだ、このぐらいは当然だ)
悪いな、相棒。おかげで肩の力が抜けた。
「さて、全員そろってるな?」
キョウヤさんがこちらを見据えながら言う。
「全員って、真紅ちゃん含めて三人しかいないんだから、見れば分かるでしょ?」
「まぁ、雰囲気だ、雰囲気。大切だろ? そう言うのって」
「言ってなさい。それより、急がなくていいの、キョウちゃん?」
「OK分かった、今開く」
俺達は巨大な門、WorldCrossGateの前に立つ。
「それじゃあ、行って来い!」
キョウヤさんのその声が聞こえると同時に、WorldCrossGateが開き、その中に足を踏み入れた。

<SCENE080>
剣を振るう。
その瞬間において引き出す事の可能な最良の一撃を雨の如く絶え間なくぶつける。
だがしかし、振るう斬撃が《混沌》に手傷を負わすことなく、その全てが止められ、流され、空を斬る。
それでも、可能な限り最良の斬撃を休むことなく打ち込み続ける。
そうだ、こうしていれば……いつか《混沌》にダメージを与えれるかもしれない。
まだまだ動けるんだ……こんなところで、諦めてたまるか!
一瞬、雨の如く降り注ぐ斬撃が途絶える。……それはほんの一瞬。
そのわずかな隙、だがその一瞬で、気が付けば黒い刃を突きつけられていた。
「だめだな、その程度では我を倒す事など出来ん」
こちらはさっきから全力で攻め続けている。
――だが、《混沌》はまるで力を出していないように見える。
それでこの押され様だ。強すぎる……根本的に、何かが違い過ぎる。
まともに殺り合って、勝てる方がどうかしているとしか思えない。
つまりは、単純にどうやっても勝てない、という事。
階位の差は二つ。だが……大きすぎる溝。
もう……だめなのか? いい加減に、諦め――
(駄目よ、翼。どっちにしても後は無いんだから、最後まで……戦わなきゃ)
――っそうだ、そうだよ。諦めれる筈……無いんだ。
(うん、私も最後まで一緒に戦うから……だから、絶対に諦めないで)
あぁ、そうだ、諦めない……諦められる筈が無い。
叶と、みんなと、兄さんとの約束を、ただ守る為、俺は戦うしかないんだ。
地面を蹴り、後方に大きく跳躍して……着地する。
――さぁ、仕切りなおしだ。
勝てぬ相手、圧倒的な差を持つ相手と戦う覚悟も出来た。
後はただ……決して折れることなく突き進むのみ!
「俺はまだ諦めない。いや……お前をぶっ潰すまで絶対に諦めない!」
「無駄な事を……実力差がまだ分からんか」
「そんなもん、言われなくてもさっき十分思い知ったさ」
「愚かな……実力差を知っていて我と戦うのか……いや、それを言うなら始めから貴様はそうだったか」
「愚かと呼ばれても構わない。俺は託された、兄さんにお前を倒せと、力を託されたんだ」
――約束を破る訳には……絶対に行かない。
兄さんに、借りを作ってしまうから――
「だから……さぁ、さっさと続きをやろうじゃないか《混沌》。俺は――いつでもやれるぞ」
手には白銀の剣を握り、巨大な白翼を背負って。
何処までやれるか分からないけど……やるんだ。
約束を破るのは俺が死んだときのみ。
守れなければ……俺も兄貴と同じところに行く筈なのだから、その時に謝ればいいさ。
「良いだろう。追い詰め、嬲り、我に抗った事を後悔させてやる」
その言葉と同時に《混沌》の手元に紅い三枚の燃えるような花弁が現れる、そこから剣が顕現する。
それは、禍々しく、歪な刀身を持つ黒い剣。確かな質量として存在する魔剣。
それを握った瞬間、《混沌》がこちらに向かって動き出す。
そして、俺も魔を断つ剣を構えて駆け出した。

――to be continued.

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