‡小説‡
『還るべき場所』(4)
「……ん…?」
少し眠っていたのか…?
ベッドに突っ伏したままの身体は、なかなか覚醒しようとしない。
少しは睡眠を取れたのだろうが、ひどく身体が重い。
横になった事で、かえって全身に疲労が回ったような気さえしてくる。
「…ちっ…」
思うように動かない自分の身体に舌打ちして、なんとか身体を起こすと、着替える為にクローゼットへ向かう。
昔は何とも思わなかった。
この姿に誇りさえ抱いていた。
今も、その思いは変わらないハズなのに…。
なんだか時折、この鋼の鎧のように自分の体を締め付ける、マフィアの証のスーツを無性に脱ぎ捨てたくなる時があった。
…彼が傍に居なくなってから…
重い腕を持ち上げて、クローゼットを開ける。
「…ん?」
そこには、見覚えの有りすぎる、1着の並中の制服が掛かっていた。
いや、見覚えが有ると言っても、最近の話ではなく、色褪せる事無く記憶に残っている、彼と過ごしたあの日々の中での話だ。
彼と出会い、過ごした日々は、10年経った今でさえ鮮明に思い出せる。
しかし、何故ここにその制服が在るのだろう?
中学を卒業すると同時に、自分の制服を処分しようとした時、驚いた事に10代目に慌てて止められた。
だが、「もう着る機会も無いでしょうから…」と話すと、
「じゃあ!その制服、オレにくれない!?」
と、仰られた。
10代目に頼まれて断る理由など有りはしないので、お渡ししたのだが…
その制服が、何故ここに在るのだろう…?
おもむろにその制服を引っ張り出すと…
『カチャリッ』
乾いた金属音がして、何かの鍵らしき物が自分の足元に転がった。
「…っ…!?」
その鍵には、少なからず見覚えがあった。
並中の地下に秘密のアジトを建設した際、10代目と守護者達には個室が設けられた。
10代目の部屋には何度も伺った。
その際に、俺に鍵を預けられた事もある。
10代目と守護者達の部屋の鍵は、どれも複雑な作りになっていて、どれも形は似ていない。
…俺が見紛う筈はない。
それは、10代目の部屋の鍵だった。
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