‡小説‡
『還るべき場所』(5)
辺りには静寂が広がっていた。
どうやら、時刻は真夜中のようだ。
10代目の部屋の鍵を手にした俺は、夢遊病者のようにフラフラとアジトをさ迷っていた。
とはいえ、向かう先は1つ。
俺は真っ直ぐにその場所を目指す。
昼間、開こうとして開けられなかった扉。
10代目が居なくなってから、何度となく拒まれてきた扉。
『カチャッ!カチャカチャッ!!』
無意識に震える手のせいで、上手く鍵が回らない。
「…くそっ!!」
情けなく震える自分の手に悪態を付いて、もう一方の手で押さえ込む。
『カチャッ!ガチャリッ!!』
「…っ…!!?」
鍵の開く音に、心臓が飛び跳ねる。
「……っ!」
息を飲んで扉のノブに手を掛けると、
『カ…チャ…』
乾いた金属音と共に、扉が開いた。
その部屋の風景は、あの日の朝と変わっていなかった。
10代目と朝の挨拶を交わした最後の日と…
『トクン…』
部屋には未だ、部屋の主の香りが残っていた。
『バタン…』
あの、自分を拒み続けた、何よりも重く感じた扉が、面白い程軽く閉まった。
途端に自分を包み込む彼の香り。
『ギシ…』
ベッドに手を乗せると、軋む音と共に思い出す、幾度と無く、何度も何度も繰り返した、甘く…そして熱い記憶…。
「っ…!!」
胸が、まるで心臓が潰れるかのように締め付けられる。
『ドサッ』
軋む胸を抑えつけながら、目の前のベッドへ雪崩れ込む。
途端に広がる甘い香りに、『あの日』から何度となく流れる頬に伝わる暖かい感触。
「…じゅ…ぅ…だぃめ……」
あなたに逢いたくて、
あなたに触れたくて、
あなたを抱き締めたくて、
あなたの声が聴きたくて、堪らない。
「−獄寺くん−」
「えっ!?」
『パタンッ』
10代目の声が聞こえたような気がした。
流れる涙をそのままに、勢い良く起き上がると、何かが倒れた音がした。
腫れぼったい目を擦りながら、その正体を確かめると、
それは−
[*前へ][次へ#]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!