商い物 Just a Game 1 【既婚上司+美形マスター×平凡部下】 悪い人だ。 でも、拒まなかったオレも悪いんだ。 「ごめん…、ナツ君には黙ってたけど俺、奥さんいるんだ。」 「そ、うなんですね…」 なんでピロートークでそんな事、告白するんだ。 体を何度も繋げる前に告白して欲しかった。 大切に扱い始める前に言って欲しかった。 「でも、正直なとこ妻とは上手くいってなくてさ、1年くらい会話らしい会話もしてないんだよ。もうすぐ離婚すると思う。」 「…そう、ですか。」 「ナツ君、魅力的ですごく知りたい、って思っちゃって…」 恋愛慣れしてないオレは、まんまと騙されたってわけ? それを聞いてオレはどうすればいいわけ? ねぇ、オレはどうしたらいいの? オレは上司の淳さんにすごく懐いていた。 営業部の中で、かなりやり手だし部下を大切にしてくれる。 慕いに慕って、その気持ちがいつしか恋愛感情に変わって、それで付き合う事になった。 デートコースはいつも同じ。 会社帰りの車の中、ノンアルコール飲料を飲んで愚痴をこぼし合う。 そして、オレの家で体を繋げて一回終わったら帰る。 明日もあるから、という理由で日付を跨ぐまでいたことは無い。 けど、薄々勘付いていた。 写真フォルダを見せてくれてた時に見えた、赤ちゃんとの写真。 親戚の子かな、なんて不安をはぐらかした。 だって、結婚指輪してなかったし。 既婚の告白をされてからも、オレと淳さんは体を繋げた。 愛してるよ、と最中に言われて、笑った俺の心情は… ーーーウソつき…。 その言葉が本当だったとしても、オレには嘘にしか聞こえなかった。 オレのことなんて、都合のいい性欲処理くらいにしか思ってないようにも思えてきた。 「マスター、どうしたらいい?」 「どしたの、なっちゃん?」 「…相手がまさかの既婚者だった。」 「はぁ!?」 「いいようにされてるのかな…。」 ラムコークを差し出す、行きつけのバーのマスター。 その手は男なのにとても綺麗だ。 カラン…と氷の音を立てさせて、一口飲む。 「でも、相変わらず大切に扱ってくれるんだ。気分じゃない、って言えばヤろうとはしないし…。」 「うーん…、ねぇ、なっちゃん」 「うん?」 マスターの海さんがジーッとオレの目を覗き込む。 なんだか気恥ずかしい…。 海さんは淳さんとはまた違った美形だ。 柔らかな雰囲気を纏った王子様のような感じ。 口元のホクロが色っぽくてカッコいい。 染めてない黒髪に緩くパーマをかけている。 このバーに来る人は、殆ど海さん目当ての人だ。 対して淳さんは、ワイルドな男前。 短めの髪をワックスでセットしているが、時々セットしていない時もある。 取引先の担当者が女性だったら即落ち率95%だ。 「なっちゃん、恋愛って相手を信じれなくなった時点で終了なんだよ?」 「え?」 「『騙されてもいい』その覚悟があるなら、そのまま付き合えばいいし、覚悟がないならもうやめた方がいい。」 「あ、えと…」 「どちらにしろ、なっちゃんが相手よりいっぱい傷つくのは目に見えてるよ。」 「…そ、か。」 胸が、苦しい。 海さんの顔を見ていられなくて、俯けばふわりと頭を撫でられた。 「選ぶのはなっちゃんだ。でも、もう苦しくて辛くてダメになったらさ、」 ーーー僕が迎えに行くから。 その言葉の意味がわからないほど鈍感じゃない。 顔を上げて海さんを見ると優しく笑っていた。 顔が、熱いよ…。 [*前へ][次へ#] [戻る] |