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商い物
Suicide headache
【病んでる保険医×平凡】



6月になるとやってくる。
自分で自分を殺したくなるような憂鬱感。
痛み出す頭に白い錠剤を2個飲み干せば、効かなくなったプラシーボを期待して、これで大丈夫と言い聞かせる。



「…んせ、先生ってば!」

「え、あぁ小金か…。今日もサボりか?」

「サボりなんて人聞きの悪い。自衛のためと精神衛生のためだよ。」

「あぁ…」



高校1年、小金あずみ。
ある時期から保健室通いをする生徒だ。
理由は、彼の腕や身体中にある痣。
原因は、GW明けという中途半端な時期に来た問題児な転校生。



隔離されたこの学園は少しばかり歪んでいて、その歪みに巻き込まれた小金を俺が拾ったことがきっかけ。
小金がいるその時だけ、俺の意識は彼に集中して慢性的にある痛みを紛らわせてくれる。



「先生さー、何でオレなんかのこと拾ったの?」

「急に何だよ?」

「だってさ、他の教師だって触らぬ神に祟りなし〜、って放っとかれたのに変じゃん。変な噂だってたってんだよ?」

「変な噂?」

「そそ!オレと先生は付き合ってるんだって噂。そんなん、先生の首が飛ぶんだからありえないじゃんね。」



馬鹿だよね〜そんなこと考えてる奴ら、なんて笑ってる君に、俺がどんな顔をしてるのかわからないだろう?
いつも痛む左側の顔を抑えて、言葉の意味を考え込んでみた。



小金と俺が付き合う?
あぁ、なるほど…。
それは、なんて素敵なことだろう。



「兵頭先生?大丈夫?頭痛いの?」

「ん、あぁ…大丈夫だ。」

「ふーん、天気のせいかな?」

「毎年のことだ。慣れたよ…。」

「ねぇ、知ってるよ?」

「何だよ?」

「先生がさ、痛みを痛みでごまかすためにつけた傷のこと。」

「見たのか?」

「そりゃもうバッチリ。オレの手当てしてくれてる時に…。あとは割と有名な話だから…」



ーーー先生の自傷癖。



「ごめん。」

「いや、有名な話だからな。」

「早く6月が開けると良いね。…その間は、オレが手当てしたげるよ。」

「バーカ。下手くそなんかにやらせるか。」

「うわ、ひどっ!」

「…ありがとな。」

「へへ…」



どこにでもいそうな特筆することのない生徒。
友達と笑っていた。
わからない勉強に唸っていた。
泥に塗れて花を育てていた。
そして、独りになった時諦めと痛みに泣いていた。
本当にどこにでもいる男子生徒だ。



だけど確かに、君を見た時に痛みが消えたんだ。
他の人間ではあり得なかったこと。
君は知らないだろう?
6月になると一段と酷くなり、痛みから逃れるために別の痛みでごまかしていたのに、今年はまだやっていないんだ。
それは、君がそこにいるから。



「さっき…」

「うん?」

「さっき何で拾ったのかって言ってただろ?」

「うん。なんで?」

「俺にとって あずみ は薬だから。」

「っ!なに、それ…」



久々に呼ばれたんだろう小金の下の名前。
ちょっとびっくりしてる顔が笑えた。



「薬だよ、あずみは…だから、」



ーーー俺の前からいなくなるなよ?



「兵頭先生、口説いてんの?」

「かもな」

「えー、噂は噂のままにしときましょうよ。」

「ま、半分冗談だ。揶揄うと面白いな小金。」

「うわ、先生タチ悪い〜。あ、そろそろ職員室行かなきゃ。じゃ、また来るね〜。」

「そんな時間か。気をつけてな。」

「あーい。」



保健室を出る小金の背を見送る。
襲って来る痛みにギリと歯をくいしばる。
もう効かない。
白い錠剤なんかじゃ効かないんだ。
俺はあずみでなければ痛みから逃れられない。
だから、今は噂のままでも卒業して他人になったら…



ーーー俺のものにしよう。



逃してなんかやるものか。
今は生徒だから泳がせてやるが、卒業したその時には誰の手も届かない所へしまって、俺の薬になってもらう。
俺だけを見て、俺だけを感じて…。
小金で思考を満たされる俺と同じように。



授業免除の代わりに、教師から課題を受け取って来る休み時間の10分間。
俺はその時間ですら小金のことを考えて、痛みから逃げている。



「早く戻って来いよ、あずみ…。」



憂鬱とする湿度の高くなるこの季節。
割れるような痛みを、取り去ってくれる君に早く会いたい。


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