商い物
Passed away +
【ヤンデレ使用人×不憫平凡】
父は財閥の会長で、母は旧家の娘で別企業の社長。
兄は優秀すぎるくらいに優秀で、しかもメディアに出れば女性たちの間で話題になるほどの美形。
しかもすでに、財閥次期当主として認められている。
そんな家族仲はかなり冷え切っていた。
俺は特筆すべきこともない平凡。
神谷家当主の弟、とすら認識されてないと思う。
ーーー本当に神谷家の子なの?
屋敷で働く人たちにすら、そう言われて自分の食事は作ってもらえなかった。
自分でなんとかするしかない、そう思って始めた料理は割と性に合っていて、どんどんのめり込んでいった。
「彼は、椎葉由良。私の新しい付人だ。」
中学生に上がる頃、初めて顔を合わせた兄と並んでも見劣りしない、漆黒の色彩を纏うかなりの美形に、心臓が凍る思いをした。
白磁の肌とは対照的な黒髪。
まるで冬のような人だ。
そして何より目を引いた真っ黒な目は、どこまでも冷徹で、何もない自分を見透かされているかのようだった。
形式だけの挨拶。
きっと他の屋敷の人たちと同じように、見てくるのだろう。
そう思った。
けれど、それはもっと嫌な方へと転がっていった。
家の息苦しさに必死に頑張り、技術特待枠をぶんどって全寮制の男子高校に上がった。
するとなぜか一つ年上の椎葉も転入して来たのだ。
椎葉は海外で飛び級して大学も卒業していたのに、だ。
実際その能力を買われて、大学4年で会社経営に携わる兄の付人という名の、右腕的立ち位置にいた。
椎葉にはすぐファンクラブが出来た。
そして、椎葉は何故かオレに構ってきた。
家ではあんなにも冷たい目で見るのに…。
いや、冷たい目の奥に、よく分からないものがあるんだけれど。
椎葉が構えば、ファンクラブはわかりやすくキレて嫌がらせをした。
家を出ても精神的に追い詰められる日々…。
その日もぐったりと疲弊したオレは、眠りに就こうとベッドの中で微睡んでいた。
そしてどういう手段を使ったのか、椎葉はやってきた。
それからオレは、犯された。
おかしくなりそうな程の快楽の狭間に、捉えた黒い色彩の奥、じわりじわりと殺さんとする狂った捕食者の雄がいた。
すぐに逃げ出そうとした。
けれど、阻んだのはファンクラブの人たちで。
高校の3年間は、家には囚われないが椎葉に雁字搦めにされる日々を送った。
その間にも、料理コンテストで賞金を稼ぎ、貯金して卒業後の今度こそ得られるだろう自由のために計画を練った。
そして得たのは…。
「あなたが神谷を捨てるならば、私も神谷を捨てるだけ…。」
フランスで料理の修行をして、一人前と認められ、ようやく1人で立っていける。
だから、神谷と縁を切ろうと5年ぶりに帰宅した。
そんなオレを待っていたのは、椎葉がいなければ立ち行かないくらいに椎葉に依存しきった家業。
「お前は役立たずなのだから、椎葉のための肉になれ。」
兄の言葉に涙すら出ないほど絶望した。
暴れ逃げるオレを使用人がつかまえ、薬を打つ。
立っていられないオレを椎葉が大切そうに抱えた。
「約束はお守り致しますよ、神谷家当主様。」
その言葉を最後に、気がつけば脚の腱を断つ手術が行われ、椎葉がいなければどこにも行けない体にされてしまった。
冷徹な目が、初めて心底嬉しそうに笑んだ。
「もう、どこにも行かせない…」
ーーー逃がしません。
オレは椎葉の作った箱庭で、1人静かに頬が濡れるままにした。
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