商い物
黒揚羽の花 下 *
中へ入るとそこは、人1人が住めそうな空間になっていた。
そして、さらに奥…そのドアを開けると、目を疑うような光景がそこにはあった。
「いっ…はぁん!!」
「梓くん、気持ちい?」
「き、も…いい!!んあぁっあっあ!!」
「こちらも、ふ、む…忘れないでくださいよ?」
「んひぃっ!!や、それ!!吸わないでっ」
梓と呼ばれた目当ての平凡は、空中庭園に面した半分ほどがガラス部屋になったそこで、広いベッドの上あられもない姿を晒していた。
梓を背後から抱き締めいやらしく攻めているのは、会計親衛隊隊長。
梓のモノを口に含み口端を汚しながらも幸せそうに愛撫するのは、副会長親衛隊隊長。
その乱れる姿を愛おしげに見つめながらお茶をしているのが、会長親衛隊隊長と書記親衛隊隊長。
「こ、れは…」
理解の追いつかない脳が、秋永に説明を求めた。
すると秋永は、クスクス笑いながら乱れる梓に近づき、その喉を擽り優しく頬を撫でた。
「れい…とさん?…うぁっ!」
「綺麗だよ、梓…誰よりも愛してる。」
その言葉に幸せそうに純白に笑う。
光景はどこまでも淫らなのに、何故か清廉で美しさすら感じた。
ガラスの向こうにある庭園の花々と同じ、綻ぶような笑顔は見たことがなかった。
それもそのはずだ。
生徒会役員は、梓を暴行することはあっても愛したことはおろか、本人をしっかり見たこともなかった。
転校生に夢中で何も目に入っていなかった。
「可愛くて綺麗でしょう、私たちの花は…」
秋永の目に愛しさが溢れている。
親衛隊総隊長の彼を知っているものなら、天変地異の前触れか!?と思う光景だ。
何故なら、優しげに貼り付けられた笑みの中、瞳だけは常に冷徹であったから。
ひたりと生徒会役員に向けられた眼差しに、全員が鳥肌を立てた。
「ずっと落ちて来るのをね、待ってたんですよ。私とは縁を持つことのないこの子のこと…。転校生のお陰ですね。まぁ、予想外に各隊長も彼に惚れ込んでしまって私が在学中は共有しようという事になったんですけどね。」
ーーー彼を壊してくれてありがとうございます。
その目にはどろどろの狂気と愛情がない交ぜになっていた。
生徒会役員は悟る。
自分たちが梓を恐ろしい人間の手に落としてしまったことを。
そして梓はこれから先、普通には生きられないだろうことも。
自分たちの行いがひと1人のあったかもしれない未来を奪った現実と、奪える力を持つ人間に恐怖した。
「私はあなた方に何かするつもりはありません。しかし…もし梓を奪うというなら、」
細められる瞳は心臓を握られるような恐怖を与える。
「あなた方の大切なもの全てを奪います。」
秋永の生徒会役員を部屋の外へ連れ出す指示のもと、呆然とする役員たちは部屋から連れ出された。
ドアが閉まる寸前に、梓の嬌声が聞こえた。
ドアを隔てたあちらとこちら。
同じ世界なのに、梓の世界と自分たちのいる世界は異なるものだった。
「梓…あずさ…私の可愛い梓…全てから守ってあげるから、」
ーーー私の手の中で花となれ。
1年後、秋永の卒業と共に梓も学園から、そして社会から存在を消した。
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