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はじまりの恋
告白/13
 じっと見つめてくる藤堂。その表情も言葉の意味もわからず首を傾げると、ふっとため息をつかれる。

「これから毎日、先生にお昼用意してきます」

「え? いや、いい! いい、悪いから」

 その言葉に慌てて首を振れば、藤堂は僕の腰掛ける椅子の背もたれと机に手を置き身を屈めた。
 途端に距離が近くなり覗き込むように顔を寄せられる。あまりの近さに身体が仰け反った。

「悪いと思うなら普段からちゃんと食べてください。身体壊したらどうするんですか」

「んー、わかってはいるんだけどなぁ」

「それはわかってないんです」

「う、うーん」

 どれもこれも正論過ぎて言い返せない。
 それでもなにか言い訳はないかと頭を巡らすが、目の前で再び小さなため息がつかれる。

「無駄に考えないで頷いた方が利口だと思います」

「な、なんでそこまでするんだ」

「愚問ですね。そんなの先生のことが気になって仕方ないからに決まってるじゃないですか」

「そんな恥ずかしいこと真顔で言うな」

 冗談でもそんな理由困るのだが、真剣に言われると更にどうしようもなくむず痒い。しかもなぜにこう、藤堂は歯の浮く台詞をいともたやすく言ってしまえるのか。
 今時の若者ってみんなこんなもんなのか? 自分には絶対無理だ。その前にそんな台詞は僕に似合わない。どん引きされて終わりだ。

「先生?」

 急に黙り込んだ僕に藤堂はふいに眉を寄せる。

「俺みたいなのが相手で面倒くさいって思ってますか?」

「いや……違っ、う」

 藤堂の目が不安そうに揺れ、思わず首を左右に大きく振ってしまった。
 弱い。この顔に弱すぎるぞ自分。

「そうじゃなくて……あぁ、うーん」

 それに藤堂の顔はどんなアップにも耐えられる気がするが、こっちは普段見慣れない綺麗なものが間近に迫って、心臓は既にもう耐え切れずに限界だ。しかし顔を背けるわけにもいかず、視線をわずかにそらしているのだが、目の前で話をされるたび、動く口元が目に入って更に墓穴を掘った気分になった。

「と、藤堂? あのな……ち、近い」

 そう申告し、耐え切れず藤堂の肩を押した。けれど何故か逆にその手を取られ、さり気なく指先に口付けられた。あまりにもさり気なさ過ぎて、一瞬なにが起きたかわからなかったが、僕は飛び上がるようにその手を上げてしまった。

「な、なんだっ」

 めまいがした気もするが気のせいだと思いたい。心臓の音が胸じゃなくて耳の横で鳴っているのかと思うほどうるさい。

「逃げられると追いかけたくなるっていう心理はよくわからなかったんですけど。……いま、わかったような気がします」

「そんなものはずっとわからなくて良い!」

 微笑む藤堂に思わず突っ込んでしまった。
 だが忙しなく目をさ迷わせる僕に対し、藤堂はいままでにない笑みを浮かべる。ゆるりと口端が持ち上がり、瞳には悪戯を思いついた子供のような表情と艶のある光を含む。

「ちょ、待った」

 藤堂の手が撫でるように髪を梳き、指先が輪郭を添うように滑り落ちる。その感触に緊張のあまりぞわりと鳥肌が立った。

 藤堂の吐息が微かに僕の唇に触れた。
 

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あきゅろす。
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