はじまりの恋
告白/6
自分を囲うように寄せられた二つの椅子に片平と三島が腰掛けた。途端に狭い空間が更に窮屈に変わる。
「この部屋狭いよね。もっと広い準備室用意してもらったら?」
僕の心情を読み取ったかのように、片平が辺りを見回しながら眉を寄せた。
スチール製の本棚が部屋の半分を占めるこの部屋は、僕が現在使用している机とその後方。扉までの床面積しかない。せいぜい三畳程度だろう。
「まぁ、確かに狭いけど、使うのは自分くらいだからな。元々書庫だったものを、わざわざ使わせてもらってるから贅沢は言えない」
「蔵書に囲まれるのが幸せなんて暗いわね」
ぽつりと呟く言葉に棘がある彼女は、可愛い子羊の皮を被った悪魔だと思わずにいられないのは、僕だけだろうか。まったく悪い子ではないのはわかっているのに、相変わらず嫌な汗が出る。
「そうかなぁ、古典の先生らしいんじゃない」
肩を落とした僕をフォローするように三島がそういって笑った。本当にこの二人は上手くバランスが取れていると感心してしまう。
「そうそう、優哉だけど」
「え、あぁ」
思い出したように話し出した三島に対し、僕は思わず肩を跳ね上げ間抜けた声を上げた。いまその名前はいろんな意味で心臓に悪い。考えろと言われるとやたらと意識しすぎる。
「頭良いけど全然偉そうじゃないし、口数は多くないけどすごく気さくだから友達も多い方だし、優哉は良い奴だよ。あぁ、女子にも人気あるみたいで結構そんな噂も聞くかな」
満面の笑みで三島がそういうのだから、本当に良い奴なのだろう。
「ふぅん、やっぱりもてるんだな」
「あいつは一見、王子だけどね。先生あんまり見た目に騙されない方が良いわよ」
小さな僕の呟きに片平が再びにやりと笑い目を細めた。
「な、なんだそれは」
意味深な笑みがやたらと気になる。勘の良さそうな片平ではあるが、藤堂に告白されただなんてことまで、まさかわかりはしないだろうと思うのだが、彼女の笑みは底が全く見えない。
「そのうちわかるでしょ? あぁ、でも先生鈍そうだもんね。気づいたらトラップに引っかかってそう」
「う、うるさいっ、誰が鈍いだ。変な予言をするな」
口元に手を当て笑いをこらえる片平の姿に背筋が冷える。どこまで見透かされているんだろうか。なんだかやけに心臓の鼓動が早くなってきた。
「それにしても、三島だけじゃなくて片平も藤堂に詳しいのか」
「あぁ、あのね。俺たちご近所さんなんだ。あっちゃんほど長くないけど、優哉もかなり長い付き合いなんだよ」
「え? 三人とも幼馴染?」
三島の言葉に思わずあ然としてしまう。どう並べてもこの二人と藤堂ではバランスが悪い気がするが。
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