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触れた唇
「ハルク様、凄く素敵です!眉目秀麗です!」
「うん?あ、ありがとうチェルシー(眉目秀麗?)チェルシーは凄く可愛いよ」
相変わらずよく分からないけど、褒めてくれてるんだよね……?
「ありがとうございますっ!でもなんで男性用なんですか?ドレスは?」
チェルシーがピンク色の可愛いドレスをつまんでお辞儀をした。
つい周りを見てしまう。良かった、リオンはいないみたい。
僕は白を基調とした、高そうな服で。
金色の糸が綺麗な刺繍をしていた。
まあ、男ものだけど。
「……うん、こっちの方が落ち着くから」
僕がそう言うと、チェルシーは頬を膨らませた。
「……残念です。あ、先程スタンさん達が着いたようですよ」
「スタンが?!ありがとチェルシー!行ってくるね」
僕はチェルシーの頭を撫でるとスタンの元に急いだ。
「スタン!!」
「ハルク!?何でここに?!」
相変わらずの金髪鳥頭のスタンをすぐに発見し、手をふるとスタンは目を見開く。
「ちょっと色々あってね。久しぶり!スタン!」
僕がスタンにそう言うと、スタンが僕の頭をわしゃわしゃ撫でる
。
「うん!久しぶりハルク!」
「スタンさんのお友達ですか?」
「なになに?あら、かっこいいじゃない」
わらわらと僕らの周りにスタンの仲間達が集まってきた。
「ああ。俺の友達で、ハルクだ」
「ハルク・フュステル。17歳です。よろしくね」
前スタンに名乗ったとき15とか言われてすごくへこんだから歳も言うことにした。
「ふーん。……ルーティ・カトレット。18よ」
「フィリア・フィリスです。19歳です」
ルーティとフィリスに握手をすると、ルーティが眉をひそめた。
「……あんた女でしょ?17の男でそんな柔らかい手はないわ」
「っ?!」
僕が目を見開くと、ルーティがにひっと笑った。
ルーティってすごくリオンに似てるなぁってぼんやり考えた。
「そうなのですか!?」
「うん、どう見ても女の子だろ?」
驚くフィリスに疑問のスタン。
複雑だなぁ。一応男装してるんだけど。
「……うん。女、だよ。でもお願い、リオンには黙ってて。傍に、いられなくなっちゃう」
僕が頭を下げると、ルーティが分かったわ、と笑ってくれた。
多分察してくれたんだと思う。
相変わらずスタンは分かってないみたいだけど。
「あれ?リオンさんじゃないですか」
「っ!!」
「あっ!リオン!久しぶりだなぁ!」
「……ああ」
ついリオンに反応してしまう。
顔が赤くなるのが自分でもよく分かる。
ああ!僕の大馬鹿!なんであんなことしたんだろ……!
チラッとリオンを見ると、いつもと違う雰囲気でドキッとしてしまう。
いつものプレートイヤリングに少し違う髪型。黒を基準とした服の紫色の刺繍。僕の色違いらしい。
「今ちょうど、リオンの話をしてたんだよ!」
なっ!ハルク!
とスタンが僕に笑いかける。
スタンめ!感づいてよ!
「リオンさんとハルクさんは知り合いなのですか??」
「……ああ、僕の部下だ。」
リオンがチラリと僕を見る。
やっと落ち着いたのに、リオンと目があってつい下を向いてしまう。
僕をみて、リオンも少し頬を染めた。
「……はは〜ん。なるほど、ね」
「ルーティ?」
「あんたもそんな感情があったのね」
意外だわ、と付け加え、何か納得したようなルーティがリオンにぽんっ、と肩を叩く。
「ち、違う!断じて違う!!」
僕にそんな気持ちはない!と真っ赤になるリオンに次は僕とスタンが疑問符をとばす。
「なにが違うんだ?リオン?」
「そんな感情??」
「う、煩い!お前等は黙っておけ!!」
「ふふっ」
フィリアがくすくすと笑っていた。
「ハルク様ぁ!!」
「チェルシー!」
こっちに駆けてきたチェルシーを抱き止めれば、リオンが少し安心したような顔をした。……リオン、どうしたんだろう?
「あ、皆様おひさしぶりです!!!」
チェルシーが頭を下げるとスタン達が嬉しそうに挨拶をした。
「何か用があって来たのか?」
リオンの言葉にチェルシーはそうでした!と慌てた。
「ハルク様、ウッドロウ様がお呼びです!外のバルコニーにおられますので」
「あ、分かった……」
ウッドロウに説明するんだった。
僕が頷くと、リオンが凄く不機嫌な顔をした。
本当にリオン、今日はどうしたんだろう。
「あんた心狭いわね」
「……違う」
ルーティとリオンの声はもう聞こえなかった。
「……ウッドロウ?」
外に出ると、ウッドロウはいなかった。
「寒いなぁ……っ?!」
寒くてぶるっと体を震わすと、後ろから優しく抱き寄せられた。
「これで暖かいだろう?」
「ウッドロウ!!?」
頬にウッドロウの銀髪が触れてくすぐったい。
僕が少し抵抗するけど、適わないのは十分分かってるからそのまま語りかけた。
「王座継承、おめでとう?」
「……なんで疑問系なのかは分かってるよ。それが君の優しさだからね」
だって継承って意味は王様が亡くなったってことだから。それなのにおめでとう、なんておかしいじゃないか。
僕が微妙な顔をしていると、ウッドロウが優しく微笑んだ。
「ハルク、さっきの男とはどういうことだい?」
「……うん。あのね、ウッドロウ。僕は今男なんだ」
この言い方はおかしかったかな?
少し自分に苦笑いした。
「僕は今リオンの部下で、男だから認められていて」
「リオンを守ることが使命だから、僕は女だとバレてリオンの傍を離れたくない」
離れるつもりもないしね、と続けるとウッドロウはぎゅっと腕に力を込めた。
「……残酷だ」
「ウッドロウ?」
「いや、君は男らしいな。ハルク」
「ふふっ、ありがと」
そう笑う君は、まるで女神で。
だが、君は想っている人がいる。
だからこれは、私なりのけじめだ。
「私は、そんな君に惹かれたのかもしれないな……」
「え?ウッドロ……っ?!」
唇にウッドロウの薄い唇が軽く触れる。
それと同時だった。
一番見られたくない人の声が、聞こえたのは。
「おい、ウッドロウ。主役が出なくてどうす……っ!!?」
唇を離され、ウッドロウが僕を申し訳なさそうに見る。
「っ、ウッドロウ!?」
「謝る気はないよ。これが、私の気持ちだからね。」
呆然と立ち尽くすリオンと僕に、ウッドロウは優しい笑みを浮かべるだけだった。
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