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世界一9
「脱いで」
にこにこ。
いつもとおんなじ顔で、
おんなじ声色で。
だけどそれは、
有無を言わさぬ口調だった。
「美濃、さん」
「わかってると思うけど、全部だよ」
パンツとか残ってたらやりにくいし、
汚しちゃったら困るでしょう?
それは、
ひょっとしたら冗談なんじゃ。
そんな俺の淡い期待をぶち壊す、
決定的な言葉だった。
「なんで…」
だって、
ずっと普通に、
いつも通り接してくれてたじゃんか。
なのに。
なんで、
あんたそんなこと、
言うような人じゃ、なかったでしょう?
「ねぇ、律っちゃん」
びくり。
名を呼ばれ、
無意識に体が強ばる。
「僕はキミに、これからの行為を強制するつもりはないよ」
嫌なことは嫌って言えばいいし、
受け入れられないことは拒めばいい。
その言葉は、
少なからず俺を安心させてくれた。
あぁ、
そうだよな。
美濃さんは、
こういう人なんだ。
いつだって相手のことを考えて、
すごくすごく思いやってくれる人、だ。
「昨日言ったこと、訂正しちゃうけど」
その証拠に。
ほら。
美濃さんはこんなにも、
柔らかい笑みを浮かべてくれる。
「僕はキミを、僕のモノにするつもりはないんだ」
俺はまた、
すっかりと騙されてしまっていた。
忘れていたしまっていたんだ。
あたたかくて柔らかい、
美濃さんの笑顔。
それが、
彼の本質を覆い隠すための、
出来のいい仮面だったってことを。
「キミが、」
「自分の意思で、僕のモノになるんだよ」
強制じゃない、だって?
こんなの、
ただの脅迫、だ。
選択肢がたくさんあるように見えて、
選べるのは。
はじめからたったひとつ。
ひとつしか、
用意されてないっていうのに。
「で、」
「律っちゃんは、どうしたい?」
質問形式をとった、
催促のことば。
俺にできる唯一の抵抗は、
無言を貫くことだけ、だった。
恐る恐るボタンにかけた手が、
馬鹿みたいに震えてうまく外せない。
男同士なんだから、
気にすることじゃない。
そう言い聞かせても。
貫くように刺さる視線が、
指先の震えをいっそう煽った。
気の遠くなるような時間をかけ、
一番下までボタンを外し終える。
伺うように美濃さんを見た。
「うん、できたね」
残りもその調子でがんばってね、と。
まだまだ許すつもりはない。
そう、
言外に伝えられ。
肩にかかってるだけのシャツを、
落とすかどうか悩んだ挙げ句そのままにして。
今度はベルトを外しにかかる。
あぁ、
何やってんだろ、俺。
こんなにも恥ずかしくて、
浅ましい自分。
消えてなくなってしまえばいいのに。

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あきゅろす。
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