世界一10★ 纏うものがなにもなくなった自分の、 身体を改めて見る。 昨日の暴行の痕が色濃く残る肌はどす黒く、 自分のそれとは信じ難い有り様だった。 そんな俺の肌を、 醜い裸体を、 食い入るように見つめる美濃さん。 「見ないで、ください…」 無駄な抵抗とわかっていても。 押し潰されそうな羞恥心に、 耐えきれなくて。 可能な限りを両手で隠した。 その両手さえ。 肩の付け根から手首までが、 余すところなく真っ黒だった。 玩具の山を掻き分け、 こっちに近づいてくる美濃さんから。 距離をとりたくて。 「どうして?」 合わせるように後退する。 膝裏が、 何かに当たって。 「う、わ…!」 バランスを崩す。 急激に視界を独占する天井。 ふわり、 背中を受け止める柔らかい感触が、 ベッドのそれだと気づいたときには。 ぎしり。 すぐ側に腰をおろした美濃さんが、 髪がかかる程の至近距離から俺を見下ろしていた。 「ほんと、痣だらけだ」 無傷の右手が頬に触れる。 柔らかな手つきで撫でるその感触に。 「可愛いね、律っちゃん」 「ゾクゾクするよ」 悪寒みたいな寒気が、止まらない。 「…っ、ふ、んぅぅ」 頬を撫でていた指の何本かが、 無遠慮な動きで口の中に入ってくる。 押し出そうとした舌に、 擦り付けるように動かされる指。 「上手だよ。その調子でもっと舐めて」 今からこの指が、 律っちゃんの中に入るんだからね。 その、 言い聞かせるような言葉に。 これから自分の身に降りかかることが、 想像できてしまって。 ぴたり。 固まったように舌の動きを止めた。 「ん、もういい?」 そっか、 じゃあそろそろだね、と。 俺の気持ちを置いてきぼりにして、 口の中から抜かれた指が。 ぬらぬら。 俺の唾液で濡れてるのが、見えてしまう。 これ以上見たくなくて。 目を逸らした。 その、 タイミングで。 「ぁ、やめ…っ!」 内腿の間に腕を差し入れられる。 動きを止めようと慌てて足を閉じても、 間に入り込んだ腕の動きを、 防ぐことまではできずに。 「ひ、っ」 ぬるり。 湿り気をおびた何かが、 明確な意図を持って後ろの蕾を掠めた。 瞬間。 全身を駆け巡る不快感。 なに、これ。 いつもと、 高野さんの時と、違う。 気持ち悪い。 気持ち悪い気持ち悪い、 気持ちわる、い こわい。 「…嫌?」 遠くへ、 逃避するように自分の世界に入って、 いた俺を引き戻す。 美濃さんの、 トーンを下げた声。 「僕は無理矢理したいわけじゃない。だから、」 嫌だと思うなら、 拒絶すればいいんだよ。 それは、 その笑顔は、 今の俺にとって。 あらゆる逃げ場を奪って、 追い詰める為のものでしか、なかった。 「……じゃないです」 「ん?」 「いやじゃない、です」 ぶわり。 滲みだす視界。 せめて溢れさせることのないように、 噛み合わない奥歯咬みしめて。 「つづけて、ください」 絞りだした、ことば。 一世一代の、うそ。 たった今、 俺は、 この身を対価に。 悪魔と契約することを、選んだ。 [*←][→#] [戻る] |