If he hollers, let him go.
アンチ街道に突っ込みそうな予感ひしひし。
直すの、割りと楽そうな気もするけれど。
連日、転校生君と遊び続けている生徒会役員+α。ここで問題になるのは生徒会の仕事。
話に聞いた限り、転校生君のやって来た先週は入学式等の後処理で割りと平穏だったらしい。だがしかし、来月に入れば新歓があり、そろそろその準備で忙しくなる頃合いだとか。
けれど遊び倒している副会長以下役員にそんな気配は微塵もございません。これはまだ余裕があって平気だからなのか。それとも本格的に仕事放棄からのアンチに入り込んでいるのか。
これが小説ならどうなのかわかっているのだけれど、如何せん。自分が巻き込まれて当事者の一人になってるせいで、上手く先が読めん。
そのおかげで、端からでは分からないことも分かるから、傍観と巻き込まれ、どっちの方がいいなんて優劣はつけられないけど。
先日、初めて会長のとこの親衛隊に呼び出された。その際に新たに分かったことが少し。
呼び出され、すわ制裁かと、待ち合わせ場所に向かえば、いたのはまだ一度も呼び出しをしていなかった会長親衛隊隊員。転校生、会長に近づけないで〜とか言われるのかと思えば別件。
副会長以下役員にそろそろ仕事をするよう進言してくれと。
それは巻き込まれ平凡に頼むことではないのでは?と思った。
けれど会長本人に言っても取り合ってくれない。役員たちに直接言うのは他の親衛隊との兼ね合いから難しい。構われている転校生に近づくのは…何か怖いとのことで。
一番無害で話しやすそうな巻き込まれ平凡に白羽の矢が当たったそうだ。
今の段階ではまだサボってるとは言いがたい。いや実際にはサボってるのだけれど、まだ許容範囲内。ただ、ここのところ少し忙しくなってきたにも関わらず、依然遊び呆けているのが心配の種。
本来ならば心配するようなことではないが、何かこのままサボり続けて会長様に負担がかかるのではないかと。
だから、役員たちに進言してくれ。それが無理なら転校生から言うようにしてくれ。
内容は主にそんな感じ。
これ、このままなら完璧アンチじゃん。
あぁ、でもアンチに見られるような愛されて当然。自分が絶対正義といった思い込みはないからまだ救いはある。
副会長には嫌われてるから言っても睨まれるだけだろう。けれど、転校生君が言えば一発OK。全てうまくいく。
そして転校生君にはオレから言えばすんなり通るはず。何せ好かれてるから。気に入られているから。下手をすればそれは恋愛感情かもしれない。
皆でゲームをしている時も、不必要なほどに引っ付いて、離れてくれなかったし。
お呼びだしのお手紙を貰っていたから行かなくてはならないのに、適当にごまかそうが離れてくれない。
一匹狼君が、
「………そいつ、漏らすぞ」
と見当違いながらも助け船を出してくれたので何とか抜け出せたけど。ちょっと、恥ずかしかった。悲しかった。
しかも、部屋を出ようとしたとき副会長に足引っかけられて転びそうになった。リンチとかじゃないだけましだけど、気を付けてくださいとか意味深に言ってきて、もしやと思えば呼び出したのは副会長のとこの親衛隊だった。
公認か。公認なんだな。
いや、今の状況をそれなりに楽しんではいるから、ある程度は仕方ないと覚悟はできている。自己責任。それは問題ない。
ただこのままだと本当にアンチになってしまいそうで。
それの何が問題かと言うと、辛い目に合う人がいること。この流れなら会長と一匹狼君が危ない。そして、最終的には転校生君が痛い目に合うのだ。
基本的に悪い子ではない。
だからそれは可哀想に思う。
好意を持ってくれているし、聞き分けはそこまで悪くないからもっと積極的に関わって誘導すればアンチ回避できそうなのだ。恋愛感情ならばなおのこと。
でもそれを渋る理由は簡単で。
下手に関わってますます好かれたら困るのだ。
ものすごく困る。
「だって、転校生君、タイプじゃないんだもん!」
―――知るかボケ
致命的。いくら好意を向けられても好みじゃないから応えられたない。片恋はダメ。ずぇったい、NG。両想いのハピエン至上主義だから。誰か別のいい人見つけて!
「確かにあのクルックルの天パだとか、黒渕眼鏡だとか、声の大きなところにときめいたさ。でもそれは萌え対象としてであって恋愛対象じゃあないんだよ。オレの好みはもっと背が高くて、目付きが鋭くて、ストイックな感じの………会長とか風紀の副委員長さんみたいなのなんだよ!」
―――黙れ。この変態
特に見た目ドンピシャなのは会長。副委員長は中身が特殊すぎてちょっと。萌え要員ではあるけど。
―――ふざけたことぬかしてんと、その口縫い付けんぞ
「裁縫が得意なんて、家庭的ねDarling」
―――まつり縫いのついでに血祭りにあげてやろうかHoney
のんきな会話を交わしていると、ガサガサと茂みをかき分け近づいてくる気配があった。
あ、ヤバイ。
「………あ、風紀の副委員長さん」
―――あ゛?
「………………」
あぁ、ヤバイ。
目をわずかに見開く副委員長。実はオレの足元は死屍累々。とうとうキレた副会長の親衛隊が召還した不良どもが転がっている。
丁寧に積み重ねておいたから、ちょっと異様な光景だろう。
―――副委員長?赤塚か?
「うん。……………副委員長さん、どうしてここに?」
「………匿名の通報があった」
「………だって。知ってた?」
―――んなわけねぇだろ。チッ、余計なことしやがって
うわぁ、舌打ったよこの子。そんなにオレにボコられてほしかったの?
とにかく携帯を切って、副委員長に向き合う。
「とりあえず、正当防衛です」
「………北村壬允が制裁されかかっていると聞いた」
うーむ。知っているのは当事者の親衛隊とお友達だけのはずだけど、どこから漏れたのだろうか。公にはしたくなかったのだけど。
「………制裁とかじゃないですよ」
「ならばケンカか?」
それだとオレまでお咎めありになってしまう。どうにか穏便に済ます方法……てか揉み消したい。
どうしよっかな。
どういいくるめようかな。
見つけた時すでにこの状態だったとか、襲われかけたとか色々言い訳はできるけど、どれもこれも何らかしらで事情聴取される。
揉み消したいんだよ。
揉み消したいんだ。
「………手ごろな獲物と思われたみたいで」
「………かつあげでもされそうになったのか?ならば過剰防衛だ」
「いえ、違うんです」
チラリと見れば、眉をひそめている。当たり前かと、バレないようにほくそ笑む。
「この人達、風紀委員長さんに近づきたかったらしいんです」
「………っ!?」
クワッと目を見開く副委員長。よし!食いついた。
「何でもいいから問題を起こして、風紀委員長に叱られたい。むしろ罵られて見下されて、踏みつけられたいとまで思っていたようで」
「なっ!?」
「たまたま居合わせたオレをリンチして風紀委員長にお仕置きしてもらおうとしてました」
倒れふしている雑魚不良どもを見る目が虫けらを見るような目になってる。ヤバイ。にやけそう。
「どうしましょう。風紀室に連れていっても望みを叶えるだけになってしまいますよね?」
「………北村壬允」
「はい?」
「礼を言う」
ボキバキと拳を鳴らしながら不良の山に近づく副委員長。その目はすわっている。殺気だっている。
「目を覚ましたら、この者達には私自らお灸を据えておこう。二度と夏川様に近づこうなどと邪な思いを抱かぬように」
そうだよね。副委員長は風紀委員長に近づいてほしくないんだよね。特にこういう人達には。だって、副委員長は、
「夏川様に罵られるのは、私だけでいい!」
風紀委員長大好きなドエムさんだもの。
ごちそうさまです。
さて、副委員長が不良どもを引きずっていった後、腰を下ろして近くの木に寄りかかる。考えるのはこれからのこと。
とうとう本格始動した制裁。一旦始まれば、堤を切った勢いになるだろう。この流れはあまり好ましくない。みんな仲良くハピエンがいい。
どうすればいいだろうかと、いくつもの選択肢を思い浮かべる。
Eenie,meenie,miney,mo;
Catch a tiger by the toe.
If he hollers, let him go.
Eenie,meenie,miney,mo.
どれを選んだとしても、どうもやる気は起きない。
せめて、誰かのためならば。
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