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―――2




「よぉ、会長サマ」
「げ」
「んだよ、随分な挨拶じゃねぇか」

 いやな奴に見つかってしまった。

 教室で見つけることはできなかった。ならば便所か、教室移動の時か。最後にあると確認したのが何時だったか定かでないので、とにかくしらみつぶしに歩き回っていたらこれだ。軽く背中を叩かれる。

「こんなとこで何してんだ?」
「お前には関係ない」
「つめてぇなぁ、おい」

 にやにやと癇に障る笑い方をしながら、そいつは馴れ馴れしく肩に腕を回してきた。鳥肌が立つ。離せと、腹に肘鉄を食らわそうとしたが、あいてる方の手で難なく阻まれた。

 本当に、いやな奴に見つかった。

「会長サマがお仕事さぼって散歩かよ。いいご身分だな、おい」
「さぼってねぇよ。今、急ぎのはないんだ。お前こそ、こんな所でふらふらしてるな。仕事しろ」
「オレはいいんだよ。こうやってふらふらしてるのが仕事だ。見回り、見回り」

 言いながら、ぐぐっと体重をかけてきやがった。

「ふらふらしてるだけで、見回ってないだろ。いいから離れろ。重い。近い。暑苦しい」
「押しつぶそうとしてんだって」
「押しつぶすな」
「んだよ。めがね君の分際で、オレに意見しようってのか?」
「めがねの何が悪い。めがねの」

 はぁ〜、仕方ねぇなぁと息を吐きながら、ようやく解放された。

 全く、本当にいやな奴に見つかった。

 第一ボタンはあけられ、ネクタイも緩められている。着用しているセーターは指定外の物だが、まぁ許容範囲内の服装ではある。一般生徒ならばだが。さらに言えば、その性格は完璧に許容範囲外だ。

 こんな奴に関わっていても、腹が立つだけだと足早にその場を去る。捜し物をしているなどど知られれば、邪魔されるに決まっている。

「………」
「………」
「………おい」
「あ?」
「何でついてくる」
「ついてくるぅ?オレの行く先に会長サマがいるだけだろ?自意識過剰なんじゃねぇのぉ?」
「………っ」

 どうしてっ、こいつはこうも人を苛立たせるのだろうか。

「で?何してんだ?」
「………」
「会長サマ?」
「………」
「あ?このオレを無視しようってのか?」
「………」
「いい度胸じゃねぇか」

 声が聞こえるだけで不快だが、言葉を返せばよけい不快な思いをさせられる。会話をするつもりはないと、ひたすら前を見据えて足を動かした。

 頭を、片手で捕まれる。ギリギリと力を込められた。

「いっ!?痛い、痛いっ」
「はぁ〜、無視されるとか、も〜オレチョーショックー」
「ちょっ、痛いっ、離せっ」
「オレの心、チョー繊細なのに。無視はないよな無視はー」
「わ、わかった。無視しない。しないから早く離せ」

 パッと手を離された。

 本当に、こいつは………っ。

「陸山っ」
「あ?」
「仮にも、風紀の長がそうやって暴力を働いていいと思っているのか?」
「いーんだよ。オレがルールだ」
「いいわけあるかっ」
「いーんだよ。大体、オレがこういうことするの、お前だけだし」
「ふざけるな!」

 こいつはいつもこうだ。

 オレが生徒会に入った当初、嫌がらせを受けた。だが、こいつだけは生徒会に入る前から嫌がらせを行っていて、それは今も続いている。

 本当に無遠慮な奴で、オレが友人と昼食をとっていても邪魔をしてきた。教室でも、学食でも、そのほかの場所でも嗅ぎつけてやってくるのだ。落ち着いて食べることができないし、その内友人たちに憐れみの眼差しを向けられるに至った。

 だから、先輩に避難所を提供されたのは、とても助かったのだった。

 来ていいと言われた翌日も、そのさらに翌日も、オレは昼休みにそこを訪れた。陸山がそこまで追いかけてくることはなかったし、ゆったりと食事をとれる数少ない場所となった。

 そうやって通い始めてしばらく、生徒会に相応しくない!の嫌がらせは収束した。

「へぇ。よかったじゃん」
「はい」

 答えながらパンの袋を破く。

 先輩は彩りのよいお弁当を広げていた。自分で作っているのかとも思ったが、入っていたブロッコリーを神妙な目で見つめた後、無表情で咀嚼していたので違うのだろう。

「不思議ではあるんですが」
「何が?」
「納得して引き下がった感じではないので。オレの姿見ると逃げ出すんですよね」
「あー…玖峪には天の邪鬼ヒーローが付いてるからなぁ」
「天の邪鬼?」
「こっちの話」

 気にするなと手を振られるが、関係のある話なのに気にせずにはいられない。

「心当たりがあるんですか?」
「あるってかなー。気になる?」
「なります。誰かが何かしたってなら、言いたいことがありますので」
「それ、お礼じゃないよね」
「はい」

 当たり前だと大きく頷く。

「余計なことするなと、文句の一つでも言わないと気が済みません」
「だよね。オレ、関わりたくないからノーコメント」
「先輩っ」

 これ以上は話さないと、先輩は首を横に振る。ようやく理由がわかりかけたと思ったのに。

「………情報源だけでも」
「オレ、人望あるから。自然と情報集まっちゃうんだよな」
「ヘェー」
「お、信じてないな」
「人望あるならこんなとこでぼっち飯食ってませんよ」
「オレはこの弁当を一人占めするため、一人で食べてるのだ」

 曰わく、教室で食べているとクラスメイトにおかずを奪われそうになるとか。そのほかの場所で食べていても、通りかかる友人知人にことごとく奪われそうになるとのこと。

 本当かどうかは知らない。

「そういう玖峪は?友達と飯食わなくていいの?」
「………っ、陸山に、邪魔されるので」
「あー…え?相変わらず?」
「むしろ最近少しエスカレートしてきてます」
「あー…」

 生徒会に相応しくない!が収束する前後あたりから、陸山の嫌がらせの頻度が増した。生徒会に相応しくない!より陸山の方がやっかいだってのに、やっかいな方が残ってしまったのだ。

 しかもその上、

「………何であんな奴が風紀委員にっ」

 そう。つい先日、陸山は風紀委員に入ったのだ。どうしてあんな奴が。

「あー…まぁ、ドーンマイっ」

 応援されても嬉しくない。





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