寄り道 宇治金時。抹茶白玉。抹茶アイス。抹茶パフェ。抹茶のシフォンケーキ。抹茶のロールケーキ。抹茶プリン。チョコレートにも合うよな。 お抹茶を飲んだらなんだか無性に抹茶を使ったお菓子を食べてみたくなった。いや、餡子玉も美味しかったけど。それとこれとは別問題。 美味しかったな。餡子。……あぁ、抹茶餡蜜。 学校を後にして、買い物についていって、そのまま帰ると言う椿をシャーウッドにつれて行った。え?何でとかなり戸惑われたけど気にしない。 まだ時間あるし。もっと一緒にいたいじゃないか。 そういったことを言ったら、困惑された。迷惑とかじゃなくて、本当に困ったって感じだから面白い。嫌ではないけど意味がわからないみたいな。 カウンターではなく、奥の二人席に座る。 「シキまだ帰ってこないんでしょ」 「まぁ…」 「一人で留守番しててもつまんないじゃん」 「んー…」 曖昧な返事は、そんなことないと言っている感じだった。え?何?もしかしてシキの帰り待ってるだけで楽しいとか?それ、どこの新妻さ。てか、だったらなおさらシキ何してんのだよ。 実際のところを訊ねようとしたら、椿が先に口を開いてしまった。 「……文化祭、楽しかった?」 「あ、うん。お抹茶、面白かった」 「……美味しいじゃなくて?」 「うん。面白かった」 ふふふと笑えば、椿は首をかしげる。でもだって、美味しいって言うよりも何だか本当に面白かったし。味に対する感想としてはおかしいってわかってるけどさぁ。 「椿、何か慣れた感じだったよね」 「あぁ…何度か経験あるから」 「授業とかでもやるの?」 茶道の授業があるなんて何かすごい感じがするけど。あ、でもそしたら毎回お菓子食べれるのかな。だったらいいな。 「ううん。知り合いで、茶道やってる人がいて。何度か招待された」 「へぇー。どんな人?」 「んー、スキンシップが好きな人」 「……スキンシップ?」 何かそれって茶道やってるイメージではないけど。 「何でその人茶道やってんの?」 「何でって…」 思わず訊いちゃったけど、そんなことを訊かれても困るだけだよね。でもやっぱ気になる。 だって茶道って物静かなイメージなんだもん。スキンシップ好きな人って、大抵賑やかで落ち着きなかったりするじゃん。他人の事言えないけど。 「その人の家が茶道の家元だから……」 「え?そうなの?」 「うん。一時嫌で家を出てたらしいけど、今は好きでやってるって」 「じゃあ、その人の家って日本家屋?敷地内に茶室とか倉とかあったり?」 「うん」 さらっと答えてるけど、それって結構大きな家だよね。知り合いって、どの程度の付き合いなのかな。 てか、そういう家って何か色々と厳しそうだよね。それでスキンシップ好きって。……あぁ、でもそっか。だからこそ、人の温もりが欲しかったりするのかなぁ。 「……スキンシップ好き以外の情報は?」 「物静かな人だよ。落ち着いていて、基本的に笑顔で。和服とか静寂が似合う人」 「……ん?」 何かまたイメージがずれた。 「年は?」 「二十五」 あー、結構離れてるな。じゃあ弟みたいな感覚なのかなぁ。年の離れた弟とかいたら猫可愛がりしたいもんな。 「……頭撫でたり?」 「うん。髪をすいたり、頬を撫でたり。手握ったり、背や腰に手を添えたり」 「………………」 ……あれ?何かそれ違くない? 「……女の人?」 「男の人」 それってスキンシップ好きーとか、弟みたいに可愛がってるとかじゃなくない?いや、オレもふざけてやったりはするけどさ。どう、なんだろ。ライバル出現とか考えちゃって良いのかな? 「どれくらいの付き合いなの?」 「……もう、五年だね」 「へぇ」 まだやさぐれてた頃だ。悟に出会う前。 「長いね。五年前って言うと…小学生の時?」 「……うん」 「どういう知り合いなの?」 「……ちょっと、助けてもらったことがあって、それで」 「助けて?」 「うん」 困ったように首をかしげられ、これ以上は聞かれたくないのだとわかった。まぁ、オレもね。オレも悟との出会い訊かれても助けてもらったからとしか言えないし。うん。詳しくは言いにくい。 「そっかぁ。よく会うの?」 「ん?……それなりに。でもここしばらくは会ってないよ」 「え?何で?」 もしかしてシキがいるから?だったら良いな。と思ったらちがかった。 「今、アメリカに行ってるから」 「アメリカ?」 「うん。向こうにも教室を開くらしくて、詳しいことは知らないけど帰ってくるのは年末だって」 「ふぅ〜ん?」 じっと眺めていると、コーヒーを一口飲んだ椿が視線に気づき首をかしげた。 「……そんなに気になる?」 「ん?うん」 「お抹茶、気に入った?」 「ん?」 あれ?勘違いしてる。茶道に興味あるからその人の事訊きまくってるんじゃないよー。その人自体が気になってるんだよー。 訂正はしないけど。茶道にも興味あるし。 「だってなんか面白かったし」 「そっか」 「うん。やっぱ正式にだと着物じゃなきゃダメだったりするの?」 「洋服でもいいみたいだよ」 「椿は和服着たりするの?」 見てみたいかもとか思いながら訊いてみたら、少し首をかしげてから何かを思い出したように微笑んだ。 え?何その表情。何か楽しそうなんだけど。 「最近の方がよく着てたね」 「最近?」 「うん」 「自前のがあるの?」 最近会ってないってのに着てるってことは私服として着てるってことなのかな?見たことないけど。 「……う〜ん。その、茶道やってる人にね、着てみたらって和服の古着屋に連れてかれて、持ってはいるけど…」 言い淀んだので、首をかしげて先を促す。 「最近着てたのは別のやつ」 「二着持ってるの?」 「持ってるって言うか…」 どう説明しようか悩んでるみたい。そんなにややこしいことなのかな。 「あれは一応シキのになるのかな?」 「シキ?」 「うん。買ったのシキだし。着てるのオレだけど、もらったわけではないから」 「………………」 状況がいまいちわからない。 「……シキの買った着物を、椿が着てるの?」 「うん……それ買いに行ったお店が前の時と同じで少し驚いた」 結構知られてる店なのかなとか呟いてコーヒーを飲む椿。 うん。そのお店の情報は今はどうでもいいよ。それより、服をプレゼントって、脱がしたい、抱きたいという意味合いがあるんだよ。それって、着物にも有効だと思うんだよね。椿はそこら辺どう思ってるんだろ。 てか二人が二人とも洋服じゃなくて着物て。しかも全く同じ店でって。 大体、茶道の人はお茶の時に着て来てねって口実(口実だと決めた。今決めた。独断と偏見で)だとして。シキは? 買ったはもののあげたわけではないんでしょ?でも着させてるって何それ。 「どういう状況なのか訊いても?」 「ん?」 「何でシキの着物着てるの?」 「何か、描きたかったみたいだね」 「………………ん?」 描くって、絵の事だよね。何の絵を書きたいって?着物?でもそれならわざわざ着せる必要ないよね。 え?じゃあ、着物姿の椿?シキが?いや。ないないない。それはないっしょ。だってあのシキだよ。あり得ないって。 でもそのあり得ないがすでに一つ起きてるんだよねー。 「………………シキが、着物姿の椿、絵に描いてるの?」 「ん?うん」 ……さらっと答えたよこの子。 「な、何でー?」 「何か、人物画の練習?って言ってたよ」 オゥ、ジーザス! いや、オゥ、マイガッ!でもマンマミーヤでも何でも良いけど! 人物画の練習?何それどういうことよ。シキに練習必要なのは知ってるよ。でもあんた丸っきりやる気なかったじゃん。嫌いなんじゃなかったの。それが何でいきなり自主的に練習始めてるのさ。課題さえまともに提出せず怒られてたって聞いたよ。 え?それとも何?椿だから?椿だから描きたいとでもいうの?何それ。ちょっと本当、どうしたっていうのさ。鬼の撹乱としか思えない。 自分の所に住まわせたあげく、絵のモデルにするなんて。 「か、帰る!」 「え?…あ、うん」 ガタンと立ち上がれば椿が呆気にとられた。うん。いきなりで驚いたよね。でもごめん。気にしてられない。 「あ、伝票」 「いい。オレ払うから」 「けど…」 「いいから。椿はゆっくりしてって」 半ば強引に伝票を奪い取り、レジへと向かう。 だって、衝撃的すぎる。早く誰かに話したくて仕方がない。 「千里ちゃん、今日シドさんは?」 「大学に行ってるけど?」 「そっか。じゃあいいや」 会計を終えてシャーウッドを後にする。 そもそも、シドさんに話せば後で家に押し掛けちゃうもんな。突撃するなら便乗したいし、止めといた方がいいか。知らない内にそんな楽しいことされたらつまんない。 マスターに話せば、絶対シドさんにも伝わるから却下だし。トメは今仕事中だよな。あの店入れないから無理。 サキは…話してもシキの事そこまで知ってる訳じゃないしきっと驚きを共感してくれない。 悟は、ね。うん。無理。言ったらどんなことになるか。 やっぱトメだよな。トメ。ここはもう家に押し掛けて帰ってくるの待つしかないよな。うん。久しぶりに他人の手料理も食べたいし。そうしよう。 そうと決まれば、早速レッツゴー! ……と、その前に何か手土産買ってかないと。 <> [戻る] |