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無視してた理由




 面倒だった。

 ただもう本当に面倒だったのだ。

 四季崎と友人関係なのだと周りに思われている。特に親しいわけではない。用があるから話をする。用がなくてもたまに傍にいるのは静かだから。近寄りがたいとかいわれてるから他人がよってくることないし、向こうから話しかけてくることは滅多にないからゆっくりしたい時にちょうどいい。なんてか便利。

 友人と思われて不都合があるわけでもないし、否定するのも面倒だから放置してたら、四季崎に対する窓口みたいに扱われるようになった。直接話せばいいのに。無害なんだから。

 基本、適当に聞き流して終わりにしてるけど、中には面倒な人もいるわけで。その先輩も、そんな面倒な内の一人だった。

 ちゃんと聞いていなかったからよくは知らないけれど、その先輩は四季崎の事が好きらしい。ならばオレにではなく本人に言えばいいのに。なぜかオレに色々話して聞かせるし、聞き出そうとする。四季崎の事なんて、あまりよく知らないのに。

「………告白しちゃえばー?」

 そう言ったら、面白いぐらい慌て始めた。

 机にほっぺたくっつけたままその様子を眺める。無理だとかそんなこと望んでないとか言ってるけど、オレにあれこれ言うよりよっぽど建設的だと思う。

「………押しに弱いとこあるし、ぐいぐい行けば案外どうにかなるかも」

 目に見えて揺れ始めた。

 直接四季崎のとこに行ってくれれば、オレはゆっくりのんびりできる。告白した結果どうなろうと関係ないから、いくらでも背中を押すことができた。

 ただただ、面倒だったのだ。



 ■■■■■



 見ず知らずの先輩に呼び出された。

 いちゃもんでもつけられるのかと思ったが、相手はやけにそわそわしていた。その雰囲気には覚えがある。あるがまさかそんなわけあるはずがない。そう、考えていたのにそのまさかだった。

「………………あんた、男だろ」
「ああ」

 理解が追いつかない。

 眉間に皺が寄る。

 確認するまでもなく目の前にいる先輩は男だ。しかもオレよりガタイが良い。ならば聞き間違いだろうか。たった今、自分は告白をされた気がするのだが。

「それでも、その………好きなんだ」
「………………」

 聞き違いではなかった。

 眉間のしわが深くなる。

 そういう人間がいるのは知っている。身近、というほど近くはないがそういう人間を一人知ってもいる。知人の自称愛人が男だ。ただ、アレの場合半分ぐらいは冗談なので、そうなのだとカウントしていいのか不明だ。

 しかも、知人が対象にされているとは言え関係のないことなので、顔をしかめるだけで済んでいた。だが、どうやら今は自分がそういう目で見られている。

「………それで?」

 一体全体、なぜそれをオレに言うのか。

 どうせ伝えておきたかっただけなのだろう。ならば、まぁ、聞くだけ聞いておけば気が済んで、それで終わりだ。多少の不快感は残るが、面識のなかった相手。二度と顔を合わせることはないし、そうなれば程なく忘れてしまえる。

「………付き合ってほしい」
「……あ?」

 とっととこの場を立ち去りたいのに、訳の分からないことを言い出された。是と答えるはずなどないのに、わざわざそんなことを口にする意味がわからない。

「そういう趣味はない」
「本当に?」
「あ?」

 ぐいっと身を乗り出してきた。思わず一歩引く。

「今まで経験なかったからそういう趣味ないと思いこんでるだけで、実際はそうじゃない可能性だってあるんじゃないか」
「おい。何言って……」
「一度、試しに付き合ってみて、答えはそれからでも遅くないだろ。いきなり恋人が無理だと言うなら、友達以上恋人未満からでも良い」
「断る」
「何故だっ?」

 何故だじゃねぇよ。

 ぐいぐいと詰め寄られ後ずさる内に、背中が壁に当たる。

「そんなん、了承するわけねぇだろ」
「押せばどうにかなるって言ってたのにっ!」
「誰がだよ」
「黒沼君だっ」

 あの野郎っ。

「わ、わかったっ」

 ガシッと、肩を強く掴まれた。

「じゃあ、一度だけ。一度だけで良いから身体の相性を試させてくれっ」

 ハードル上がってるじゃねぇかっ。

「案外、イケるかもしれないだろっ?」
「男につっこむ気はない」
「大丈夫だっ!オレはつっこまれたいんじゃなくてつっこみたいっ!安心して身を任せてくれっ!」
「………っ!?」

 ぞわっと鳥肌が立つ。

「オレの部屋、近くだから今から……むしろ何なら、いっそ今ここで……」
「っざけんな!」

 力の限りに蹴り上げた。



 ■■■■■



「黒沼ぁっ!」

 カフェテリアでのんびり涼んでいたら、大声で名前を呼ばれた。四季崎から声をかけてくるなんて珍しい。しかも何か機嫌がよろしくないみたいだ。

「何?」
「てめぇ、どういうつもりだ」
「………何が?」

 特に何かした覚えはない。

「何がじゃねぇっ」

 勢い、口を開きかけた四季崎はけれど、辺りに視線を向ける。周囲の学生たちが、すわケンカかとこちらを見てる。

「………来い」
「えー…?」

 何かやっかいごとの予感がして嫌なんだけど。

 舌打ちした四季崎に腕を捕まれ、無理矢理移動させられた。

「男けしかけてどういうつもりだ」
「………何のこと?」
「押せばどうにかなるとか言ったそうじゃねぇか」
「えー…?………あっ」

 あの先輩のことか。関係ないし、すっかり忘れてた。そうか。結局、本当に告白したのか。

「……あれ?もしかして断ったの?」
「当たり前だ」

 当たり前なんだ。

「四季崎、そういう偏見ないと思ってた」

 と言うか、あんま興味ないと言うか、どうでも良いと言うか、気にしない気がしていたのだけれど。

「偏見のあるなしと、受ける受けないは別だろうが」

 そういうものなのだろうか。

「第一、あんな言い寄られ方して、気分良いわけねぇ」
「……あんな言い寄られ方ってどんな言い寄られ方?」

 四季崎の表情が歪んだ。ひどく忌々しげだ。盛大に舌打ちする。

「……とにかく、二度とこんな真似するな」
「えー…オレのせい?」

 別にオレが何かしたわけじゃないのに。けしかけたわけじゃなくて、先輩が勝手に告白しただけだし。

 なのに四季崎はいっさい言い分を聞くことなく背を向けた。

「四季崎?……あれ?おーい」

 あぁ、行っちゃった。

 随分と怒らせてしまったようだ。けど、まぁ、いっか。面倒だし、放置しとこ。うん。





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あきゅろす。
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