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無視してた理由〜おまけ〜




「とうとう四季崎怒らせたのか?」

 ………とうとう?

 カフェテリアで再び休もうとしたら、知人に捕まった。腕を掴まれ、隅の席へと連行される。何か飲み物でもと思ってたのに。受け取り口の方をじっと見つめるも、何もやってきたりはしない。

 対面に座った知人は、好奇心露わに身を乗り出してきた。

「四季崎、さっき怒鳴り込んで来たろ?とうとう怒らせたんだな」
「………とうとう?」

 名残惜しいけれど、どんなに見つめたところで飲み物がやってくることはない。渋々と視線を前に向けた。

 知人は、やけに楽しそうだ。

「いや、お前のことだから、いつか何かやらかすと思ってたんだよ」
「………何もやらかしてないよ」

 やらかしたのは先輩であって、オレではない。

 なのに何でオレのせいになるのか。テーブルの上に顎を置く。恨みがましくじとりと視線を向けるが、何故か呆れた表情を浮かべられた。

「いや、お前にそのつもりがなくても、やらかしてる時があんだって」

 納得できない。

「だいたい、じゃなきゃあんな怒鳴り込まれるわけないだろ」

 そんなことない。

 テーブルにぺたりと頬をくっつける。反論するのがもう面倒だ。

「でも、まぁ、無事で安心したよ」

 無事とはどういう意味か。よくわからないが聞き流してしまおうとした。わざわざ訊ねることでもない。でも、訊いてもいないのに説明してくれる。別にいらないのに。

「殴られでもするんじゃないかって、ヒヤヒヤしたんだぜ」
「………………」

 四季崎に殴られる。それは多分あり得ない。

 ぼんやりとそんなことを思い、瞼を閉じた。頬に当たるテーブルが冷たくて気持ちいい。

 殴るなんて、そんな手を痛めつけるようなこと、四季崎がするとは思えない。それでなくたって、ケンカ慣れしてない雰囲気なのに。何で、ケンカしてたとか噂になってるんだろ。殴り合いだったら、きっとオレの方が強い。

 むしろお兄さんの方がケンカ慣れしてそうだったなぁ。

「おい。大丈夫か?」
「んー……」

 別に、心配されるようなことは何一つないのだけれど。

「……珍しく凹んでるな。何かおごってやるから元気出せよ」

 その言葉に身、というか顔を起こす。

「パフェ食べたい」
「あ?」
「夏季限定トロピカルパフェ食べたい」
「あー……うん。わかった。おごってやる」

 やったぁ。



 ■■■■■



「押しに弱いからぐいぐい行けばどうにかなるって言ったくせにっ」

 言ったけどさぁ。

 告白して、うまくいけばそっちに夢中になると思ってた。振られたら諦めて静かになると思ってた。なのに現実はどうだ。

 愚痴を聞かされるハメになるなんて、話が違う。

「………少しぐらい強引な方がいいって言うのにねー。四季崎は半歩下がってついてくるタイプの方が良かったのかな?」

 今更そんなこと言うなんての眼差しを向けられる。

 まぁ、これは冗談だけど。

「でも押しに弱いのは本当だよー」
「なら、押しが弱かったのだろうか」
「言い寄られ方が嫌だったみたいだよー」

 テーブルになついたまま、適当に先輩の相手をする。もう少し真剣に聞いてくれと言いたいのだろう、物言いたげな眼差しを向けられたが、まともに聞く気はない。

 返事をしてるだけマシというものだ。

「………いきなり恋人が無理なら、友達以上恋人未満からでも良いと言ったんだ。せめて、一度は身体の相性をと……っ」
「じゃー眠かったんじゃない?」

 オレなら眠い時に強引に迫られたら相手ボコるし。

「そんな……黒沼君じゃないんだから」
「じゃー機嫌悪かったとか?」
「呼び出した時はそんな感じではなかった」
「生理的に無理」
「それじゃ望みがないじゃないかっ」

 別に先輩に望みを持たせたくて言ってるわけじゃないし。単に思いついたこと並べてるだけなのに。

「他はっ?」
「えー?後は……単に男に免疫なかったとか?」
「それだっ」

 それだって。何かもう事実かどうかよりも、自分に都合のいい答えがほしいようだ。

「確かに、困惑しているようだった。いきなりのことで驚いたのだろう。よし。少し様子を見て、時間をかけてアタックしてみよう。ありがとう。黒沼君」
「あー…うん。頑張って?」

 急所蹴り上げられといてまだ諦めないなんて、案外ポジティブだな。そう思いつつ適当に言葉を投げかけて見送った数日後。四季崎は先輩と付き合い始めた。この先輩ではなく、別の女の先輩と。

「………何か楽しそうに笑ってた」
「へぇー」
「それに優しく接していた」
「ふぅん」

 話を聞く代わりにともらったカフェテリアの割引券十五枚綴り。それをほくほくとした気持ちで眺めながら、適当に返事をする。

 先輩はどこか茫然自失としているけれど。

「結局、すっぽかしたとはいえデートは了承したと聞いたから、今度誘ってみようと思ってたのに」
「すっぽかした翌日に付き合い始めたからねー」
「………そうなのか?」
「その場にいたから」

 恨みがましそうな眼差しを向けられてしまった。でも別に先輩の応援とかしてるわけじゃないし。

 その後延々と泣き言だか何だかわからないモノを聞かされたけど、今回は一応聞くだけちゃんと聞いてあげといた。

 それで諦めがついたのかは知らないけど、しばらく四季崎に対するアレこれを聞かされることなく平和な日々が続いた。次にその先輩の口から四季崎の名を聞いたのは学園祭が終わってからのことだった。

「………何やら、やたら綺麗な子と一緒にいたんだが」
「うん。いたね」

 何やら、やたら不可思議そうな顔をしていた。

「……新しい恋人とかではないんだよな?別れたという話は聞いていないし」
「うん。そうだね」
「それにしては、やけに……」

 言葉を区切り、悩む素振りを見せる。

 オレも、その様子は眺めていたから、何となく言いたいことはわかる。わかるけど何故それをわざわざオレに言おうとするのか。

「何というか、恋人に対するのと同じように楽しそうだったり優しかったりしてたんだが……こう……少し甘みのようなモノがプラスされていたような?……アレは一体」
「四季崎は親戚だって言ってたよー。あの絵のモデル」

 まぁ、実際には親戚じゃないんだけど。

「あの絵のモデル……それで見覚えある気がしたのか?」

 納得したような、しきれていないような様子をじっと見つめる。気づいた先輩が何だと訊いてきたが、何でもないと首を横に振った。

 まぁ、間違いはない。

 それにしても、偶然目撃して気になっただけならいいけど、ずっと様子をうかがい続けていたのなら、少し大丈夫だろうかという気がしてくる。四季崎の身が。押せばどうにかなるかもと言ったせいか、強引な手段にでそうで。

 ………まぁ、いっか。

 関係ないし、深く考えるの面倒だし。きっとどうにかなる。





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あきゅろす。
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