初夏の逃亡
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もう、限界だった。
答案用紙の回収が終わると逃げ出すように教室に戻り、カバンに荷物をつめこみ、終礼を待たずに学校を後にした。
動悸が、激しい。
嫌な汗が、流れてる。
息が、しにくい。
吐き気が、する。
自然と足早になった。一歩一歩がもどかしい。真っ白になりつつある頭で、ただただ帰路を急ぐ。
家に着くと、早かったわねと声をかけられたけど、ろくに受け答えできなかった。青ざめた顔を見られないように、すぐに自室に入る。
ドアを閉めた瞬間、一気に全身の力が抜けた。その場に座り込む。
体が、小刻みに震える。
久しぶりの感覚に、軽くパニックになりそうだった。
体を抱え込むようにして、大丈夫だと必死に言い聞かせる。
大丈夫。
大丈夫。
もう、幼い子供じゃないから。
強く、なれたのだから。
怖いことはない。きっと神経質になりすぎてるだけ。
しばらくそうして、やがて深く深呼吸をすると、大分息が楽になった。
それでも、もう我慢できなかった。これ以上は、無理。
いくら今日で試験が終わったといっても、まだ答案返しがある。終業式も。それに、今日の手応えとしては追試が必至だ。
もう、あの顔を見るのは、あの視線に耐えるのは無理。
身体は、自然に動いていた。
必要最小限な物をカバンにつめ、部屋を出る。
「あら、でかけるの?」
「うん。ちょっと旅に」
「…………は?」
目を丸くしたその人に、小さく笑みを向ける。
「自分探しの旅に、行ってきます」
それだけ言うと、返事を聞かずに外に出る。そして自転車にまたがった。
夏の空が、先程よりも清々しく感じた。
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