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君に夢中(∞ 410 4独自)
 だって君は、あまりにも危なっかしくて、愛おしい。

 僕たちの中で最後に召喚されたのは、少年に近い青年だった。

 戦士がそろって初めて行った自己紹介で、彼、ティーダは「戦闘経験がまったくない」と言い切って皆を驚かせた。
 剣も最近持ったばかりで、本業は何かの選手だと言っていた。それを聞いてから、彼はとても平和な世界で生きていたのだろうと思うと胸が痛む。
 平和な世界で生きていた彼をこの戦いに巻き込んでしまったのだから。

 そんな考えもあって僕はティーダをよく気にかけるようになった。
 戦いに慣れない彼がちゃんと戦えるのかと思うと目を離せなくなる。
 それは僕と共にティーダのお目付け役になったフリオニールやクラウドも同じだろう。
 
 戦闘慣れをしていないティーダの戦い方はとても危なかしかったが、自分の身を守れないほど弱くはなかった。
 彼の素早さは僕たちの中で最も秀でていたため、敵に突っ込んで行って撹乱するのがティーダの役目となった。

 もちろん、今の実力のままで戦っていけるほど甘くないと感じていた僕は、時間が余ればティーダと実践訓練をするようになった。
 彼の戦い方は僕たちの戦い方とは違うため、ティーダに教える事もあれば教えられる事も多い。

 それに、「戦闘経験がまったくない」ためか、ティーダは様々な戦い方を吸収していった。
 もし、彼を上手く導いて行く事ができれば、最強の戦士になるのではと感じさせるほど、ティーダの潜在能力は僕たちの想像を遥かに超えていた。
 それを不可思議に思う事もあったが、それ以上に彼の成長に期待する値の方が大きかった。

 それに、ティーダについて意外に思ったのは、家事がとても上手いということ。
 ティーダは元の世界でも独り暮らしが長く、健康管理にかなり気を使う生活をしていたためか、家事全般が自然と得意になったらしい。

 自慢じゃないが僕は家事なんてした事がなく、フリオニールは多少できるが必要最低限できればいいというタイプだったし、クラウドに至っては野菜の判別すらできない燦々たる状態。
 ティーダを迎え入れた際の料理は腕が最もマシなフリオニールが担当したが、あまりの質の悪さに驚愕を通り越して呆れたティーダが料理を持って奥へ入り、同じ料理を美味しくして戻ってきた時には全員でかなり驚いた。

 それ以降、僕たちのチームの料理当番は必ずティーダになり、食事が楽しみの一つとなった。食事係を担ったティーダも満更でもないようで、むしろ楽しそうに僕たちの食事を作っていた。

 そして、探索を終えて聖域に帰ったらコスモス陣営が改善前の僕たちと同じ状況だった事にティーダが怒り、コスモスに集められた戦士全員に“生活指導”と言う名の特訓をされたのは記憶に新しい。
 今考えても身震いするが、体調を崩しがちだった女性のティナや最年少のオニオンの健康管理ができるようになり、なによりも戦闘や探索以外にすることがあると不思議と心が落ち着いた。

 ティーダの実力がある程度ついてある程度放任できるようになると、また彼の長所が見えてきた。

 それは、ティーダの笑顔と迷いを断つ言葉。

 僕が兄さんのことで悩んでいるとティーダは笑って背中を押してくれた。
 クラウドが戦う意味を探そうとした時は笑顔で送り出しつつ必ず戻ってきてほしいと懇願し、フリオニールの小さく幼い夢を馬鹿にする事なく、微笑ましそうに笑いつつ「いい夢だな」と言い切った。

 他にもたくさん、彼に背中を押された仲間がいる。その時もティーダは笑顔でいてくれた。

 それに、ティーダの笑顔は戦いの最中でも安心を生み出した。自称・コスモス一実力のない彼が笑っているという事は、この戦いにはまだ勝機があるということ。
 少々頭が固いリーダーやオニオン、スコール辺りはティーダの良さを理解するのに時間がかかったが、次第にティーダの笑顔は皆の希望になった。

 ティーダが笑っているなら、大丈夫。

 根拠のない自信だったけど、女神コスモスがいなくなってしまった僕たちにとって、それは確固たる礎となった。…現に、ティーダがいなくなってしまった時は皆がバラバラになってしまった。

 そして、ティーダが戻ると皆は自然と戻ってきた。ティーダと言う太陽がいるからこそ、僕たちは力を合わせられた。

 そして、最後の戦い。僕たちはティーダと共に戦い、カオスを倒すことができた。でも、それは同時にティーダを失うことを意味していた。

 ティーダが消えてしまう瞬間、悲しむ僕たちに対してもティーダは笑顔だった。
 そして、僕たちの記憶の中で共に在るという事を伝えて、ティーダは消えた。

 最後の最後まで、僕たちの記憶に残ったのはティーダの笑顔だったのが彼らしいと思っていた。

「ふふっ」
「? どうしたっスか? セシル」

 ふと僕が笑うと僕の隣でくつろいでいたティーダが僕の太ももに頭を乗せて、笑った僕の顔を怪訝そうに見上げる。
 青く丸い瞳は上等な瑠璃のようで、とてもきれいで愛らしい。

 僕は笑顔を浮かべたままでティーダの潮で色あせてしまった金髪を優しく指で梳いた。

「今、この時が幸せだな。って、色々思い出していたんだよ」
「へー。思い出していたって、何をッスか?」

 目を輝かせて問いかけてくるティーダに、僕はほんの少しだけ意地悪をする。
 「教えない」と言うとティーダは残念そうに眉をしかめて、僕に教えろと詰め寄ってくる。

 …こんなに穏やかな時を過ごせるなんて思えなかった。そう思うとまた笑いが込み上げてきた。

「あー! また笑ってるッス!ホント、何を思い出しているッスかー!?」
「ふふっ。ナイショ、ナイショ」
「ずるいッスー!」

 キャンキャンと鳴く子犬のように、僕にじゃれついてくる、可愛い、可愛いティーダ。
 僕はじゃれてくるティーダを甘やかしながら、戦いを無くしたこの時間を満喫していた。

 どうやら僕は、自分で思っている以上に、ティーダに夢中になっているようだ。

 …この後、兄さんやフリオニール、クラウドが部屋にやってきて、ティーダとじゃれている僕に羨望と嫉妬の目線を向けるのは、ほんの少し後の話。

君に夢中 End お題配布元:猫屋敷

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あきゅろす。
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