水浴びする君(∞ 610)
本当に偶然、その場を通りかかった時にやってしまった。
「どうしよう…」
ティナは湖のほとりで困ったように呟いた。
その理由はティナが付けていたブローチをうっかり湖の中に落としてしまったからである。
湖の水深はかなり深く、手を伸ばしても届きそうにない。ブローチの影すらも見えず、湖を見ているとどれほど時間が経ったのか、ティナの後ろに誰かの影が立った。
「あれ? ティナ、どうしたっスか?」
ティナに話しかけてきたのは同じコスモスの仲間であるティーダ。
話しかけられたティナは悲しそうに顔をゆがめて、事の顛末を説明した。
「なら、俺がとってくるっス!」
ティーダがそういうと、軽い準備運動をして湖に飛び込む。一度水面から上半身を出して息を大きく吸い込むと、湖の水の中へ潜っていった。
ティーダが水中に潜って十分が経過する。普通の人間ならばもたない時間だ。
最初は静かに見ていたティナであったが、徐々に不安が増してくる。水中で敵に遭遇したのか?
まさか、ブローチを探していて流木か何かに引っかかったのか?
ティナの不安は時間とともに増してゆく。
やはり、誰かを呼びに行こうとティナが立ち上がった時、水飛沫と共にティーダが湖の中央から顔を出した。
「ぷはっ! やっとみつけた〜。おまたせ、ティナ!」
ティーダはゆっくりとティナのいるほとりに泳いでくると、ティナに手を伸ばす。ティナが手を差し出すと、ティナの手に小さなものが落ちてくる。
それは、ティナが湖に落として無くしたはずのブローチであった。
「ティーダ…!心配したんだからね!」
「あはは、ごめんごめん。でも、俺の息、二十分は持つから大丈夫だって!」
そう言ったティーダは「よっ!」という掛け声とともに湖から上がる。
普段は横に跳ねている髪も水にぬれたからなのか今はぺたりと垂れ、服からは水が滴り落ちており、露出している肌に水滴が滑る。
その姿を見たティナは迷うことなく、自分の肩にかけていたマントを取ると水に濡れたティーダにマントをかけた。
「え?ティナ、マント濡れちゃうっスよ!」
「いいの。私のせいでティーダに風邪を引かせたら大変だから。それに…」
こんなに色っぽいティーダ、誰にも見せたくない。
その言葉を飲み込んだティナはにっこりと笑い、タオルを取ってくるとマントで包んだティーダを待たせて陣地に戻った。
タオルを取って戻ってきたら、「ありがとう」と言おう。ティナは顔を綻ばせながら駆けていった。
水浴びする君 End お題配布元:猫屋敷
[*前へ][次へ#]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!