月夜に踊る君(013 510)
たまたま、眠れなくて。隣で寝ているジタンとスコールを起こさないようにバッツはテントを出た。
今宵は満月。明るい月の光はカンテラなどがなくても夜道を歩くには十分で、秩序の領域を出ない程度にバッツは夜の散歩を楽しんでいた。
いつもはコスモスの光で満たされている聖域も、外光の有無で雰囲気をがらりと変える。
唯一の外光である月の光で満たされた聖域は光輝いていて、いつも以上に神秘的な雰囲気を強調させていた。
「…あれ? あれって…ティーダ?」
聖域の中心でバッツは珍しい人物を見つける。
それは、コスモスの座る台座の前で何かを話しているティーダであった。
ティーダはいつもの服装であるが、武装などは解かれているラフな服装。
肩当てと防具で隠された右手は惜しげもなく外気に晒されており、靴も履いていない。そして、肩には薄い蒼の紗をかけていた。
しばらくして見えない相手との話は終わったのか、ティーダが俯くとぴんと空気が張り詰める。
張り詰めた空気の中、ティーダは虚空に手を伸ばし、紗に風を纏わせて舞い始めた。
踊り子の経験があるバッツであったが、ティーダの舞いはどの国でも見た事のないもの。
いや、ティーダの舞っているものは万人に見せて楽しませる踊りと言うよりも、唯一、神の御許に捧げられるために作られた神秘性のある舞い。
月光という光の海で、ティーダは水を得た魚のように舞い、時には水を跳ねて幾何学的な模様を作る。
ティーダが水を跳ねるたびにティーダの身体から光の粒が溢れ、ティーダの舞をさらに幻想的にしていく。
あまりにも神秘的すぎて言葉を失っていたバッツはティーダの舞いに魅入ってしまっていた。
しばらくして舞いが終わったのか、ティーダは直立して息を整える。
ティーダが息を整えていると、ティーダの周りに集まっていた光は少しずつティーダに吸い込まれていく。
その光景も幻想的で、バッツがずっと見ていると不意にティーダの視線がバッツの方に向いた。
「やべ!」
それでようやく盗み見していた事に後ろめたさを覚えたのか、バッツはその場から駆け去った。
ティーダはバッツの走って行った方をきょとんと見ていたが、再び見えない相手が話しかけてきたのか、バッツを追いかける事はしなかった。
テントに戻ったバッツは寝ている二人を起こさないように入ると、自分の寝袋に入る。
本当は眠気を誘うために散歩に出たのに、今は興奮して眠れそうにない。
「やべぇ…。ティーダ、いつもと違って…これが、ギャップ萌えと言うやつなのか…?」
月明かりに映された幻想的なティーダが色っぽかったなんて、ティーダの保護者には口が裂けても言えない。
自分しか知らないという興奮とティーダの色気で心臓の鼓動は収まる訳がなく、今夜のバッツは徹夜と言う事になりそうであった。
月夜に踊る君 End お題配布元:猫屋敷
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