ページ:2 次第に、あなたは仕事や出世のために費やす時間が長くなり、やがて人間のパートナーを探すようになりました。 私は辛抱強く待ちました。あなたが傷付いた時や落ち込んだ時にはあなたを慰め、あなたの決断が間違っていても決して非難せず、あなたが家に帰ってくると、おおはしゃぎして喜びました。 あなたが恋に落ちたときも、一緒になって歓喜しました。 彼女ー今はあなたの奥さんですがーは、『イヌ好き』な人ではありませんでしたが、それでも私は彼女を受け入れ、愛情を示し、彼女の言うことを聞きました。 あなたが幸せだったから、私も幸せだったのです…… やがて人間の赤ちゃんが産まれてきて、私も一緒に興奮を味わいました。赤ちゃんたちの、そのピンク色の肌に、またその香りに、私は魅了されました。私も赤ちゃんたちを可愛がりたかったのです。 しかしあなたたちは、私が赤ちゃんを傷付けるのではないかと心配し、私は1日の大半を他の部屋やケージに閉じ込められて過ごしました。 私がどれほど赤ちゃんたちを愛したいと思ったことか。でも私は『愛の囚人』でした。 しかし赤ちゃんたちが成長するにつれて、私は彼らの友達になりました。 彼らは私の毛にしがみついて、よちよち足でつかまり立ちをしたり、私の目を指で突付いたり、耳をめくって中を覗いたり、私の鼻にキスをしました。 私は彼らの全てを愛し、彼らが私を撫でるたびに喜びました。 何故なら、あなたはもう、めったに私を触らなかったから…… 必要があれば私は命を投げ出しても、子供たちを守ったでしょう。私は彼らのベッドにもぐりこみ、彼らの悩み事や、誰にも秘密にしている将来の夢に聞き入りました。そして一緒に、あなたを乗せて帰ってくる車の音を待ちました。 以前あなたは、誰かに犬を飼っているかと聞かれると、私の写真を財布から取り出し、私の話を聞かせていたこともありました。ここ数年、あなたは『ええ』とだけ答え、すぐに話題を変えました。 私は『あなたの犬』から『ただの犬』になり、あなたは私にかかる全ての出費を惜しむようになりました。 [前へ][次へ] [戻る] |