NARUTO
二
朝からナルトは目まぐるしく働いた。
今日は週初めで、患者の数も多く喉から来る風邪が多く見られた。
『咳が取れないのは、もうどれぐらいになりますか?』
「もう一か月は続いていて、咳き込みが強くていつも行っている小児科では風邪としか言われなくて・・・」
不安な声で告げる母親を見て、ナルトはにこりと笑う。
『そうでしたか、やはり毎日傍にいるお母さんからすれば、心配と不安が強かったんじゃないかな、と思います。』
「そうなんです!もう心配で・・・咳で呼吸が出来なくなった時はもう・・・っ」
瞳に涙を浮かばせながら訴える母親に、ナルトは黙ってきいていた。
医者はその時母親にきいた時にしか分からない。
だからこそ常に傍にいる母親の言葉を多く聞くようにしている。
『じゃあ、血液検査とレントゲンを撮りましょうか。それでお母さんの心配も、苦しめる原因も分かりますが、お時間の方は大丈夫ですか?』
「はい、お願いします!」
ナルトは子供と同じ目線になって頭に手を置いた。
『身体の中で、何が悪さをしているのか、調べる勇気はある?』
子供に聞き取りやすいよう言葉を区切って伝えると、子供は力強く頷いた。
『怖いことなんて何もないから。これから頑張るんだから、終わったらパパとママに、沢山甘えるんだよ。』
「・・・うんっ!」
嬉しそうな顔で診察室から出て行くと、ナルトは背伸びをした。
黒森君は上手くやっているだろうか。
ナルトは椅子から立ち上がって様子を見に行くと、上手くやっていた事に安堵した。
「斗真君腕の力抜いてー」
「いーやーだー・・・」
採血だったのか。
ナルトは処置室に向かうと、嫌がる男の子がいた。
ナルトはしゃがみ込んでそれを見ると、看護師はそれに気付いて視線で助けて!と訴えてくる。
『斗真ー、それしないと昼ご飯冷めちゃうぞ?』
「でもヤなもんはヤなのっ!」
睨みつける子供に、ナルトはクスクス笑う。
『じゃあ、水泳の大会出られなくなってもいいんだ?』
「それもヤだっ!」
『出たいなら、採血しないと結果がわからないだろ?』
「ダメだったらどうすんだよ!出れなかったら・・・っ」
結果が怖い。だから採血をしたくない。
そんなのナルトには分かり切っている事で、ナルトも大丈夫だなんて軽々しく言えない。
『ダメだったら、そん時は俺が考えてやる。考えて、出れるようおれも頑張る。だから斗真は自信を持て。』
「それでも出られなかったら?ダメになって、でられなかったら!?」
もしも、の方が強くて、男の子は泣き出した。
ナルトは立ち上がって抱きしめると、背中を撫でる。
『怖いのは分かる。でも、結果を恐れるな。次があるだなんて言わない。斗真はその日のために今まで頑張って来たんだから・・・信じろ、自分を。』
「・・・っ、ううっ」
ぎゅっと白衣を握る手。ナルトは泣き止むまでそのまま抱きしめ続け、その隙に採血をとった。
「渦巻先生って、いつもこうなんですか?」
『ん?まあ・・・こんな感じかな。』
どうした?
聞き返すと、黒森は眉間に皺を寄せていた。
「小児科医と言うよりも、看護師とか保育士みたいですよね」
『んー、やり方なんて人それぞれだろうし、愛想悪いよかましじゃね?相手は子供なんだし、委縮して言いたい事も言えない子が多いから。』
気にした事なんてなかった。子供が好きだから。
それが間違えだと言われた事もない。
エレベーターのボタンを押して待っていると、ナルトを呼ぶ声がする。
「渦巻せーんせ」
『なんですか、犬塚先生・・・』
嫌な予感しかしない。ナルトは訝しい眼差しで彼をみれば、ニカッと笑顔を浮かべる。
「お前今から昼休みだよな、そうだよな?」
『・・・チガイマス』
「奈良から聞いてんだから間違いねえんだよ!」
この野郎!頭を叩くと、ナルトは彼を見上げた。
『・・・お願い事、聞きませんから。』
「はあ!?おま、なにも言ってなねーのにそれ言うのか!?」
『だいたいそれしかないでしょう!?』
「渦巻先生、エレベーター来ましたよ?」
『のるっ!』
「んなもん却下だ!!」
ぐいーっ、と襟元を掴まれてナルトはずるずる引きずられてしまった。
「・・・騒がしいのに、良く何も言われないよね。」
黒森の呟きは誰にも聞かれないままエレベーターに乗り込んだ。
『ちょっとなんですか!!』
「そう怒んなっつーの。」
ぱっと離されて白衣を正すナルトに、犬塚は言葉にする。
「お前、確か韓国語できたよな?」
『・・・患者さんにいるんですか?』
「ちょっと通訳してくんねえか?」
育ちが育ちなだけあってか、ナルトは幼いころから家族たちと海外旅行や転勤をして言葉を覚えていた。
内科に向かって、観光で旅行にきた韓国人の通訳をして、ナルトは戻ると遅い昼休みを取った。
「通訳ちゃんとできたか?」
『・・・奈良さん』
隣に奈良が座ると、ナルトはほっとした顔を浮かべる。
久しぶりの言葉に少し躓きながらも出来て良かったと思っていた。
『なんか、本場の人だから聞き取りが少し・・・ずっとしていないとダメですね。』
たまに本でも読まなきゃダメだな。そう実感すると、奈良はふうん、とはなを鳴らす。
「できたんだから上出来なんじゃねーの?」
『・・・そう、ですね。』
ふにゃり、と笑みを浮かべると、彼は頭を軽く叩いた。
「・・・単純」
『そうですね』
あはは、と笑い柔らかな眼差しを向ける奈良に胸がきゅんとする。
「そうだ、終わったら黒森の採血練習手伝ってやってくれ。」
『あー・・・ついに来ましたか』
自分が練習台になる日が。
「俺はお前以外にされる気なんてねーから。」
『・・・それ、ただ俺を理由に逃げてるとしか聞こえないです』
「――ばれた?」
ふっと笑みを向ける奈良。
ナルトはその笑みがたまらなく好きでしょうがない。
普段の奈良からすれば、この変化はナルトにしかなくて、看護師達は二人が仲のいい先輩と後輩に見えているらしい。
ぷすり、と腕に刺さった針は、ナルトの眉間に深い皺を作った。
『深すぎかな・・・』
「すみません」
『いや、おれも苦手だったんだよ、採血。』
針を抜かれて押さえながら話すと、意外な顔を向けられた。
『それに、おれの場合は刺し方が独特だったから、直すのに時間が掛かったんだよ。』
「・・・独特、ですか?」
どうやるんです?首を傾げて尋ねる黒森に、ナルトは言いにくそうに頬を数回掻く。
『・・・かなり近い距離でやってた。』
「やってみてくれませんか?」
『は?お前気持ち悪がらねえ?』
そんな感じがしていたから。
「大丈夫ですから、やってみてくださいよ。」
『・・・はあ。』
溜息をはいて立ち上がり入れ替わると、腕を捲る黒森の肌は白い。
駆血帯を締めて、血管を探すと消毒をして、ナルトは顔を腕に近づけた。
「・・・え、こんなにですか?」
『ああ、だから言ったろ。こんぐらい近くでやんないと上手く刺せなかったんだよ。』
ぷすり。針を刺すと全く痛みを感じない。
『奈良先生と、内科の犬塚先生と、外科の日向先生と、脳外の団扇先生に扱かれまくった。』
その名前はこの病院では人気の医者達。
そんな人たちにナルトは採血の練習をさせてもらっていた。それはこの看護師達が聞けば羨ましい、の言葉しか出ない。
「でも奈良先生は採血練習させてくれないって、言ってましたよ?」
『刺してはいないさ、指導されてただけで。』
本当は家でこっぴどく練習させられた。失敗すれば一枚ずつ服を脱がされ、あられもない姿になった事は今でも鮮明に覚えている。
『もう・・・ほんときつかった』
影を背負っているかのように暗い表情を浮かべるナルト。
『ほかの人だと、叩かれ蹴られ、突かれ・・・俺の身体はサンドバックのように!!』
ぐっ、と拳に力が入ってしまった。
そんな話を聞かされて、黒森のかおは青ざめる。
「いまは、直ったんですか?」
『まあ、そのおかげで直った。』
犬塚先生なんて加減なかったんだぞ。
愚痴をこぼしてまた練習を始めた。
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