NARUTO 七 翌日言っていた通りカカシの補習を受ける事となったナルト。 出されたプリントは以前やったテスト問題と少しだけ内容が違い、捻りが加われていた。 「ナールトー、まだかーい?」 『難しすぎんだって』 小説を片手に見るカカシに恨めしげな眼差しを向けて返す。 「なんで解答がズレちゃうのか、先生は不思議だよ。」 まあ解答も間違えてたけど。 ずんと気落ちしてしまう言葉を、カカシは目を細めて笑った。 温厚な話し方だが、ずっぱり告げる彼にナルトはむっとした。 『大体さ、学校でましてや生徒の前でそんな18禁小説読むなってばよ。』 「んー?ナルト、なんでそれを知ってるのかな?」 言い終えて気まずい表情を浮かべているナルトに、カカシは読んでいた小説を閉じて近付く。 ナルトはこの小説シリーズにある意味トラウマを持っていた。 『それ、有名じゃん。』 「読んだ事、あるんだ?」 机に手をついて上からナルトを見るカカシ。 本人は顔すら上げずに耳を赤くしていた。 『無い。』 「でもナルトだってもう年頃だもんねぇ・・・」 閉じた小説を開きページをめくる音に、ナルトは助かったと静かに吐息した。 「──・・・次第に彼の手はゆっくりと肌を刺激しながら下へと下がり、彼女の秘められた場所へたどり着いた。」 『・・・っ!』 朗読を始めたカカシを信じられない目で見上げれば、目を笑わせていた。 「腕を掴み制止させようと掴むが、口づけをする事で力を奪い指先が触れた。」 『読むなってば!それ以上やだっ!』 本を閉じさせようと立ち上がって手を伸ばすが、カカシは難無く交わす。 「微かな吐息に混じって震える唇。彼の指先に触れたのは彼女の愛え・・・」 『ぎぃやぁぁああっ!!』 瞳を潤ませてナルトは叫びながら走り去ってしまった。 「お子様だねぇ、ナルトは。」 くすくす笑って、楽しかったと呟いた声を拾う者はいなかった。 『信じらんねぇ、信じらんねぇってばああっ・・・んみっ!』 ばたばた全速力で夢中になって走るナルトだが、どんと強く何かに当たった。 「・・・っ、てぇ・・・」 『ご、ごめ・・・あれ、シカマル?』 壁に手をつけて肩を摩っているシカマル。 ナルトは目をぱちくりさせて見上げた。 「お前、何してんだよ」 『肩痛い?!』 目を片方眇めて眉根を寄せているのを見て立ち上がる。 「ちげぇよ、お前のそれ、なんだ。」 『・・・ん?』 何かあっただろうかと両手でぺたぺた身体に触れる。 「目、涙出てるだろ。」 『あ、いや、眠くて』 眠気覚ましに全速力か。苦し紛れの答え方は通用しなかった。 「信じらんねぇって叫んでたろ、何があった。」 壁から手を離し一歩近付けば、一歩下がるナルト。 「カカシの補習、どうした」 『あ・・・うぅっ』 言葉に先程の事を思い出して顔を紅潮させる。 それがシカマルには面白くなくて、また一歩近付く。 「何があった」 『い、いえな・・・っ』 恥ずかしくて。また潤み始めた瞳にシカマルは自然と舌打ちが出る。 初めて見るシカマルの苛立ちに、ナルトはびくりと肩を震わせる。 「ナールト、ほら逃げてないで続きするよー」 『ひっ!や、やだ・・・っ』 突然現れたカカシに顔色を変える。 諸悪の根源がカカシだと気付くと、シカマルは冷めた目で見る。 「プリント終わってないでしょ?」 ナルトの背後からはカカシ、前はシカマル。 完全に逃げ場は無いがナルトはシカマルの背に隠れた。 「・・・あ?」 『やだってば!だってまた本・・・っ、読まれるのヤダぁっ!』 背中に顔を埋めて叫ぶように告げるナルトに、シカマルは目の前の教師を睨む。 自分の所に来たナルトに、先程の苛立ちは消えうせていた。 「こいつに何したんすか」 「ん?お年頃なナルトに少しだけコレの朗読。」 小説を左右に揺らして告げるとシカマルは溜め息をもらす。 「生徒にそれを読むって・・・読むなよ此処で。」 呆れ声で話すがカカシは楽しそうに目を細めて笑う。 ただナルトの反応が楽しいから。たったそれだけの事。 「やってる子はもうしてるんだし、教育の一貫でしょう。」 そんなのあるか、と頭の中で悪態つくシカマル。 ましてやそう言う類に疎そうなナルトにするような事では無いと。 「それ、ナルト補習受けなくなりますよ。それこそ誰かに言ったら問題になりますが。」 的確な言葉を述べるとカカシは苦笑を浮かべる。 「じゃあ早く終わら・・・」 『──・・・綱手のばぁーちゃんに言ってやる』 「「・・・は?」」 意外な言葉に二人は目を瞠る。 何故その名前が出るのか、と。 『綱手のばぁちゃんに言って減給さしてやる!』 「ちょ、ちょーっと待とうよナルト君!?」 『やだ言うもんね!俺は可愛い理事長の孫だもんね!バーチャんの権力使ってやるもんねっ!』 シカマルの背中にぎゅうぎゅうしがみつきながら、述べる発言にカカシの表情を変えた。 かくいうシカマルも、一生懸命しがみつく姿に胸が暖かくなる。 「いや、それ先生されたらマズイよ?」 『知るかそんなもん!大体、ジィチャンの小説読むから悪いんだっ!』 次から次へと言われる言葉は驚きの連続で、シカマルはおもむろにナルトの頭を撫でた。 「そんな事もうしねぇから安心しろ、な?」 『だって、だって・・・っ!』 頭を撫でる大きな手は優しく、小さな子供をあやすようだった。 「うん。先生減給と殴られるの怖いからもう読まない。」 『俺その小説、本当にトラウマなんだって』 小さな声で呟いた言葉に、二人はだからあんなに叫んだのかと内容は知らなくとも納得した。 一先ず生徒会室に戻って気持ちを落ち着かせる為に冷たいお茶を飲んだ。 『俺・・・昔ジィチャンが後学の為にって小説のネタ作りに付き合わされた事があって・・・』 「話して平気なのか?」 心配そうな顔ではなく、真摯なそれを浮かべて俯いているナルトに尋ねる。 両手でコップを掴んでいる手は微かに震えていた。 『・・・数学が苦手なのは、そのネタのアダルトビデオだったんだ』 「・・・えげつねぇ」 何歳の時にそれをされたのかはまだわからなくとも、ある意味トラウマになりそうだと考えるシカマル。 『それが・・・無修正で、俺、パソコン速いのも、一部打たされたりしたから・・・っ』 無修正とくれば間違い無く強く記憶に残ってしまうものだろう。 数学もので無修正。 苦手な理由が分かった。 「分かったから、思い出すとまた辛くなるぞ」 本当は抱きしめてやりたいのに、シカマルはただ頭を撫でてやる事しか出来なかった。 [前へ][次へ] [戻る] |