ードキ、ドキ……!ドキ、ドキ…! 周りにも聞こえてしまうんじゃないかという程胸が高鳴り、腹の底から競り上がってくるような高揚感を感じている二人。 二人は一度顔を見合せ、視線を戻す。 [それ]は白くてまあるいふわふわの毛の塊に落ち着き、エレンの両手の中で静かに体を上下させていた。 おそらく眠っているのだろう。 「アルミン……!なぁ、コイツって…!!」 「わ、分からないよ。……でも、もしかしたら…」 二人は、同時に口を開く。 [それ]は二人にとってまさに神様からの贈り物だった。 「「外の世界の生き物……!!!」」 いつの間にか、雨が止んだ空は二人の心を表すかのように、その雲の隙間から光を差し込んだ。 「…………で、どうしよう。エレン…。」 「どうしようって、育てるに決まってるだろ。」 「えっ?!」 「?アルミンもその気だったんじゃないのか?」 「いや、その……。」 確かにエレンと同じく育てようと考えていたアルミンだが、よくよく考えれば自分達はこの生物について何の情報も持っていなかった。 外の世界は未知の領域だ。 いくら[それ]がエレンの両手に収まる大きさでも危険ではないことの証明にはならない。 むしろ先程の最速の進化のような動きは、生きるためにこの土地に適応しているかのようだった。 恐らくココで僕たちが手を貸さなくても生きていけるのだろう。 外の世界の情報の手掛かりになるかもしれない[それ]に興味がないわけではない。 ただ自分のため、何より親友のためにも[それ]が持つ危険性も無視できないのだ。 アルミンはチラリとエレンの目を見た。 当然というべきか、エレンは目を輝かせまっすぐ[それ]に視線を向けていた。 そこには[それ]に対する疑問も恐怖心も感じられなかった。 ーあぁ……これは何を言っても駄目かな。 ーー 「じゃあ、寝床はどこにしようか?」 「ソレなんだよなぁ……家じゃあ無理だけど、外に作っても逃げられるかもしれないしな。」 結局、エレンのまっすぐすぎる瞳に負けたアルミンはエレンと共に[それ]を育てることにした。 まず最初の問題は[それ]の寝床だ。 家で飼おうにも親の許可が必要不可欠だ。……が 最初に比べれば大分生き物らしさが出ているが、手足もない上に顔が見つからない。 にもかかわらず、呼吸をしているかのように[それ]は体を上下させている。 不自然極まりない[それ]を親が飼っていいと言うわけがないだろう。 「ねぇ、エレン。いっそこの木を寝床にしたらどうかな?」 「は?この木を?」 アルミンが見上げて言ったのは、先程まで自分達が雨宿りしていた木だ。 丘の真ん中のそこからは見晴らしも良く、エレンも母の頼みで薪を拾ったあとこの木の根元で昼寝をしたりしている。 「ほら、根元のココ少し隙間があるだろ? ここをもう少し掘って巣穴にするんだ。 ここなら雨風も凌げるし、草が穴を隠してくれる。 ………もしその子が脅威的な速さで進化しているとしても、今は生命維持のためにこの地に適応することで精一杯で、手足を生やす余裕がないと思うんだ。 だからしばらくの間はこの子が逃げ出すこともないと思うよ。」 「??」 同じ8歳とは思えない意見に疑問符を浮かべながらも、エレンは頷いた。 こういうときのアルミンはどれが正解かを当てることができると知っている上に、己の唯一の親友なのだから。 |