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池と蛙使い





蛙が大合唱していた場所より少しばかり歩いたところに池はあった。だがそれは、水なんかじゃなかった。その色は茶色で、甘い香りが漂ってくる。そう、それはまるでチョコレート。



『……なんで池がチョコレートなの』


「池はチョコレートしかないだろ」



え、私が知っている池は水しかないんですけど。どうやらここでは私の知識は使えないらしい。



すると池の近くに、腫れた頬を押さえて痛い痛い、と言っている男を見つけた。彼は緑色の髪の毛に黄色の瞳をしていた。それはまるで蛙を人間化したような姿だった。



「ヒー、痛い、痛い」


『……ウサギくん、あの人は誰?』


「あれが蛙使い」


『………ああ、』



もうそんなことじゃ驚かなくなった私はどうかしてしまったのだろうか。でも確かに、彼は蛙人間。蛙使いだというのもわかる。



「ノア、あいつに記憶のこと聞けば?」


『いやいや、私は記憶なんて……』


「また、逃げるのか」



………また?いきなりウサギくんの雰囲気が変わる。それは決していい意味なんてものじゃなくて、恐怖を覚えた。でも私は記憶を探さなければならない、と無意識のうちに思っていた。



『あ、の……』


「痛いイタ……誰だね、君は」


『私は……』


「ノアだ」



私が名乗る前にウサギくんが言ってしまったので、だらしなく開いてしまった口を閉じた。そして私の名前を聞いた途端、シャキッと立ち上がる蛙使い。




「ノア!?」



ガッと両肩を蛙使いに掴まれて、身動きがとれなくなる。目をきらきらと輝かせ、至近距離で私を見つめてくる。そ、そんな黄色い目で見られてもな……なんて思い、無意識のうちに後ずさった。



『そ、そうですけど…』


「やったぞ!俺はツいている!」



回りながら踊る彼の手と足は完全に水掻きだった。手首、足首くらいまでは緑だ。これは本当に蛙使いだろう。というか蛙なんじゃないだろうか。



「…………」



ふと横を見ると、ウサギくんが嫌そうな、軽蔑するような目つきで蛙使いを見ていたことに気がついた。



『………蛙使いのこと、嫌い?』


「俺が好きなのはノアだけだ」



……な、なんかものすごく恥ずかしいセリフを言われたような……うう、顔が熱いよ。



こんな(ウサギみたいだけど)美少年に『好き』なんて言われたら普通はこうなるんじゃないかな。これは普通の反応だよ、うん。




「イタッ!! イタタ!」




さっきまで踊っていた蛙使いは頬を押さえてその場にうずくまった。



『どうしたんですか!?』


「む、虫歯が……」


『はぁ?』



蛙が虫歯?てか蛙に歯なんてあったっけ?



「ほらな、だから言っただろ。」



確かにウサギくんの言った通りだった。だから蛙がうるさいんだよ、と舌打ち混じりにウサギくんが言った。なんだか本当に蛙も蛙使いも嫌いらしい。



「どうせいつものことだから池のチョコレート飲みまくったんだろ」


「ま、まぁな………」


『え゙!! これ飲めるの!?』


「池は飲むためにあるんだっつの」






ああ、やっぱり私の知っている世界とはかけ離れている。








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