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ウサギくん






彼はハニーブラウンの髪を無理やりシルクハットの中に押し込んだ。そして『さぁ、行こう』ともう一度繰り返したあと、歩き出した。




『ま、待って!貴方は誰なの!?』


「ウサギ」




やっと会話が成立したのは彼の名前のことだった。ウサギ、と名乗った彼は可愛らしい顔をしているが目つきが悪すぎる。赤の目も、怖いが綺麗に澄んでいる。



『ウサギ?』



変な名前だ。というか名前なのか?



「乃愛に言われたくない」



失礼なことを抜かす彼はぷいっとそっぽを向いた。







――――――……あれ?






私、『変な名前』なんて声に出した?





「姫と俺は同じだからな」


『同じ?』


「……同じっていうのは違いがない、とか……」


『そ、それはわかってるよ!』




あっそ、と興味なさげに言ったウサギくんは再び歩を進めた。




『ねえ!どこに行くの!』


「森の中」


『違う!そーいうことじゃなくて!』


「は?」


『えーと……だから、その…』




うまい言葉が見つからない。森の中に行くのはわかる、だって周りは木だらけだから。その森の中のどこを目指すんだ、っていうか……




「池」


『は?』




また考えてることがわかったのか、やっぱり『同じ』が関係あるのかな――――……じゃなくて、池?




『池ってあの……水がたまってて、蛙とかが住んでたりする……』


「蛙?蛙は木の上にいるもんだろーが」


『何言ってるの?蛙は水の中でゲコゲコ鳴いて…』




ゲコ。




『…………へ?』



ゲコゲコ。



「……ちっ」



ゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコ




『きゃあぁああっ!!』




私は怖くて咄嗟にウサギくんに抱きついた。でもやはり変だ。見渡す限り水たまりさえも存在していない。なのに何故、蛙の……大群の鳴き声が聞こえてくるのか。しかもそれは上から聞こえている気がした。




『な、なんなのこれ……!!』




ぎゅっと目を瞑り腕にも力を入れている私。



「蛙」



『だ、だからそれはわかってるのよ!』




いつもいつも的外れな返答しかくれない彼。そんなのわかっているけれど今頼れるのは彼しかいない。




「多分、蛙使いが虫歯にでもなったんだろ」


『蛙使い!? 虫歯!?』




ゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコ




ウサギくんの言っている意味も分からないけど、蛙がこんなに騒いでいる意味も分からない。




「こんなの蛙使いしか止められないから行こう」


『えっ!? どこに!?』


「………さっきも言ったろ。池だって」




そう言ってウサギくんは自分にしがみついている私を鬱陶しそうにしながら歩き出した。私はまだ、彼にしがみついている。少し、いやかなり歩きづらいが蛙の大合唱は怖すぎる。




私たちはゆっくりと道無き森を歩いていった。








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