どうして
『……あの、痛がっているところ申し訳ないんですが……』
「イタイ、イタイ!!」
『私、記憶を探してて………』
あれだけ痛がっていた彼は、その言葉を聞いた瞬間ピタリと止まった。
「……………記憶」
『はい、そ、それで……』
「探しちゃ、ダメだ」
『……え?』
彼は私の方を向き、哀しそうな顔で言った。
「記憶なんて探すな!ここで幸せに暮らす方がいいに決まってる!」
ものすごい剣幕で私の肩をつかみ、ゆさゆさと揺さぶった。私は次第に頭が痛くなる。
どっち、なの………?
私は、記憶を探さなきゃいけないの?それとも探してはいけないの?
「記憶を見つけたらノアはきっと後悔する!!」
後、悔?すると不意に蛙使いの手が離れた。私はまだ揺れているような気がする頭を押さえる。
何が起きたのかはわからなかった。だが明らかに蛙使いはウサギくんを見て怯えていた。だがウサギくんの表情はいつもと同じ、仏頂面。どこも怖くはない。
蛙使いと会ったときもこの顔だったのだから、蛙使いも怖がる必要は無いはずだった。
私は不思議に思いながらも再び蛙使いに同じ質問をした。
『……それで……記憶がどこにあるか知ってますか?』
「…あ、ああ、知っているとも」
『本当ですか!! どこにあるんですか!?』
今度は私が蛙使いに近づいていった。それをよけるかのように後ずさっていく彼。
「記憶は……"通路"に行った」
『通路……?』
「そうだ。この池から行ける」
『い、池から!?』
そのときの私は気づかなかった。彼が、蛙使いが、"記憶は、通路に行った"と確かに言っていたことを。
「大丈夫だ、溺れやしない」
『当たり前でしょ!! 池なんだから溺れるわけないじゃない!』
「池だから、っていうのはちょっと違うな」
『は?』
「行くぞ!」
『えっ?わあぁああ!!』
私はウサギくんに手を引かれて、チョコレートの池へとダイブした。そのときふと聞こえた声。それは『壊れないで』というものだった。多分蛙使いの言葉だろう。だけど私にはその言葉の意味がよくわからなかった。
茶色い視界。目を開けているのは痛いかもしれないと思ったが、全く痛くはなかった。だが、息はできない。でも酸素が切れかかってくるころに、ウサギくんが人工呼吸みたいなものをしてくれたお陰で、死なずに済んだ。
でも人工呼吸は強引に言い換えるとキスなわけで……私は初めてのキスを何回も、何回も奪われてしまった。
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