「愛!」 「知らないっ」 バンッ────── 愛が扉を閉めたことで静まりかえるリビングに俺たちは暫く立ち尽くしたままだった。 「やりすぎたかな」 「──そう、ですね」 「うん…」 あんな辛い過去話したばっかで平気なわけないのに、騒ぎすぎだよな…。多分そう感じたのは俺だけじゃなくて、二人も結構反省してるみたいで、おとなしくなった。 「愛チャンだからいつもみたいに止めて、笑ってくれると思ったんだけどな…」 「過去を話したことで気持ちが不安定なんでしょう」 「だよね…て、そう言えば愛の傷、父親がつけたって言ってたよな、骸」 リビングのソファーに腰を下ろした俺たちは、反省会みたいに溜息を漏らしながら話していた。 その時ふと過ぎった帰ってきて直ぐの骸の言葉を思い出して、俺は口を開いた。 「そう言えばそんなこと言ってたね」 「──今日、赴任してきた教師が愛の義父…つまり話の中に出てきた¨紫苑¨だったんですよ」 「「───」」 骸の言葉に、空気がピリッと張りつめたのが分かった。紫苑て…、愛の父親の仇。 「僕が少し離れた隙に手を出されましたから…」 「だから愛…」 「怪我だけで済んだの?」 俺が言い掛けたときに、横から飛んでくる殺気は白蘭のもので、その言葉の重みに、骸の責任が問われているように感じた。 確かに骸がいれば怪我なんかしなかったんだろうけど…、全部が骸のせいなわけじゃないし…。 「ええ、誰かが僕の先に彼女を助けにいったみたいです」 「へー…、じゃあ骸君はいてもいなくても同じだったってことだね」 「───っ」 いつもなら白蘭の皮肉にも言い返す骸だけど、今度ばかりは図星と感じたのか、悔しそうに言葉を切った。 「その紫苑とかいう男もさっさと消しちゃおうか」 「なっ!それじゃ意味ないよ!」 白蘭がいきなり何を言い出したのか全く理解できなくて、つい声をあらげていた。 「何で」 「だ、だって───」 それは愛の問題だし…。 「僕らが手を出せば、愛にも迷惑はかかる。それに、愛が前に進めないでしょう」 そういうことだ。流石骸! 俺の代弁をしてくれた骸にホッとしていると、白蘭は冷たい笑みを浮かべたまま口を開いた。 「何、感情入れしてるの…殺すことに一々躊躇う必要なんてないよ」 鋭く細められたその瞳は、愛がいるときには決して見せない冷たい表情。それはもうミルフィオーレボスとしての顔。 白蘭、愛が大事だから傷つけられたこと怒ってるんだ…。 「愛が悲しむのは嫌だから俺はそんなこと嫌だ」 「綱吉…」 「──」 俺だって愛を傷つけてボロボロにしたんだから許せないけど、でも──…。きっと、罰を下すのは俺たちじゃない。被害者である愛だ。 いつかはいなくなる俺たちが干渉していいのはここまでなんだ…。 「俺たち…いつまでも愛のとこにはいられないんだよ」 「「?!──」」 「なのに、俺たちが愛を追い込んだら意味ないじゃん」 愛には俺たちがいたんだって、楽しかったなって思い返してくれるような日々にしてほしいから…。 その思い出が愛の支えになってくれたら──…。 .... (さあ、愛チャンの好物作ろうか) (こういう時は切り替え早いですね) (んー?それは骸君の方だよ) (…そうですか) (──(よかった) |