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第9夜 怖れ事『複雑な心境』
不安定で、今までそこにあったもの全てが失われていく恐怖心の芽───…















───れ事


















「ツナさん」


「んー…?」


「ツーナーさん!」


「んー…」


「起きろ!てか離せ!寝てる間に抱きついてこないで!」


はい─、何か雰囲気おかしいですよね?うん。何かシリアスからギャグ転向の兆し?でも残念ながら違うんだよねー…。


いつの間にかあたしに抱きついて気持ちよさそうに眠ってるツナさんを起こそうと奮闘していたあたしに対して、当の本人は起きる気ゼロで、終いにはあたしが我慢できなくなった。


「痛いんだけど」


「おはようゴザイマス、ツナさん」


ちょっと足が出ちゃったあたしは、思いっきり彼の脇腹を蹴ったようで、バッチリお目覚めになったツナさんには極上のスマイル付き。ゾワーッとなるようなやつ。


「そんなに構ってほしかったんだ」


「うん、隼人に」


「あっそー」


¨隼人¨その名前を出した瞬間に消えた笑みの代わりにあたしに向けられたのは、鋭く冷たい瞳と、何処か寂しそうな表情。


それから直ぐに顔を逸らして、起きあがった彼は、あたしも一緒に引っ張った。


「ちょ、」


「愛が強情だから、サプライズで今日は隼人に会わせてやるよ」


「え──?」


あたしを抱きしめて、耳元でそっと囁いたツナさんに妙な違和感を感じて、その言葉に裏があるような気がして、素直に喜べない自分がいた。


「何、嬉しくないの?」


「……また何か仕組んだんですね」


「さあね、まあ会いたくないなら無理にとは言わないけど、どーすんだよ」


あたしの目の前で作り笑いをするツナさんに試すような問いかけをしても無駄。そうは思いつつ問いかけてみたけど、彼の表情からは何も掴めなかった。でも、何か裏がある。


それでも隼人に会いたい気持ちは抑えられない程に大きくて、


「会います」


「そう」


自分から絶望の淵に足を踏み入れた。




***

「どういう事だ!ふざけんなよ、てめぇ!」


「あら、愛に会えるんですのよ?ここは感謝して頂くべきですわ」


「何が感謝だ!きたねー手使いやがって!こんな事で、俺と愛を引き離せると思うなよ!」


俺はそれだけ言って、テーブルに並べられていた祝電を破り捨てて部屋を後にした。全く気にいらねぇ女だ。俺と婚約披露宴だ?ふざけやがって。


俺が心に決めた女は、生涯かけて愛し抜くと誓った女は愛だけだ。アイツ以上の女はこの世界どこ探したっていねーんだよ。


篠宮淋が俺に話があると言って現れたあの夜から数日、未だに愛の姿すら見れない日々が続いていた。そんな俺に、今日は愛に会えると話を持ちかけてきやがって。


何か裏があると聞き出せば、俺とあの女の婚約披露宴に十代目が愛を連れてくるっつー話だった。


「…んでだよっ。…何で、おかしくなっちまったンスか、十代目──っ」


あの頃の、俺やファミリーを救ってくれた優しい笑顔はどこに消えたンスか──?貴方はいつから偽りの笑顔を、紛い物の冷めた笑顔を見せるようになったンスか──?


マフィアになっても変わらぬまま接してくれていたあの温かさは、どこにいったんだよっ!俺が今まで信じてついてきた十代目はどこにいったんだよ!


壁に拳をぶつけて、力なく垂れ下がるそれは血に濡れていた。だが、その拳を心配して包み込んでくれる温かい手も、優しい笑顔も、今は傍にない。


俺の支えだった愛も、今は傍にいねぇんだ。誰も、俺に笑顔を向けてくれる奴はいない。


また、独りに戻るのか?俺──、


壁を背にその場に座り込む。別に誰に見られようが構わねぇけど、愛にだけはこんな格好悪ーとこ、見られたくねー。アイツには弱みなんか──。


「獄寺隼人、こんな所で何してるんだい?赤ん坊が探してたよ」


「……ああ、」


やべ、今愛のことばっか考えてたから、アイツが来たのかと思っちまった。何落胆してんだよ俺。


「……僕で悪かったね。……愛にそんな惨めな姿、見られたくないなら早く立ちなよ」


「!──、」


そんな俺の心を見透かしたように雲雀の口から紡がれた言葉。何か、こいつには愛と付き合うようになってから図星ばっかつかれんだよな。


「あの子が今どんな気持ちでいるのか、その辺よく考えることだね」


愛の気持ちか──、俺と同じだったらいいなんて情けねーこと思っちまう辺り末期だぜ。愛は今、十代目を助けることで頭が一杯だろーが、普通に考えてよ。


「──、雲雀」


「何?」


俺はだらしなく下がる前髪をくしゃっと掴みあげて、俺に背を向けて去っていく雲雀を呼び止める。


「お前は愛と俺のこと、知ってたのか…?」


「──、愛は僕の幼馴染みだよ。分からないわけないでしょ」


「──」


どうしても確かめておきたかったことを問いかけた俺に雲雀から返ってきた答えは、俺が予想していた通りの回答だった。そうだ、コイツは愛の幼馴染みだったんだっけな、すっかり忘れてたぜ。


「これ以上、あの子を君たちのくだらない争いに巻き込まないで」


「ああ、分かってる」


「──、早く自分が何をするべきなのか気がつかないと、手遅れになるよ」


「!──」


雲雀が最後に残した意味深な言葉は、俺の胸の中に渦巻いていた不安をより一層濃くする。怖いと思うことが最近増えた気がする。全部愛関係だけどな…。


なあ愛、お前は俺があの女と婚約する事、嘘だって信じてくれるよな?




....
(雲雀、お前脅しすぎだぞ)
(…あれくらい言わなきゃ分からないよ。それに僕は嘘は言ってない)
(まあ、な。これで獄寺がどう動くかはアイツ次第か)




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あきゅろす。
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