恐れていた何かが、音を立てて近づき始めているような錯覚───… ───惑い事 「ツナさん」 「ん?」 「あたしの気持ち知っててあんなことしたんですか?」 「────、…自分で自分の首絞めるんだ、愛は」 休憩室と称して会場の隣接に用意されている一室にツナさんに連れられてきたあたしは、もうバレている事を悟って、真っ直ぐにツナさんに自分の思いをぶつける事にした。…ごめんね、隼人。 「あたしは隼人を愛してます。彼以外誰も愛せません。……ツナさんが京子さんを愛して苦しいのと同じ」 ツナさん自分で気づいてないだけで、いつもその瞳はあたしじゃなくて京子さんに向けられてる。…あたしは彼女の代わりなんだ。 「どんだけ鈍いんだか知らないけどさ、…隼人の事認めた以上、これから無断で会えるなんて甘い考え捨てろよ」 「……会わなくても分かってるから大丈夫」 隼人もあたしもこのパーティー会場に入る前に確認しあって、もしもの事があった場合の事も決めてある。絶対に別れないって誓ったんだから。 そんなあたしの言葉が気に入らなかったのか、繕われていた彼の笑みが姿を消した。…それは、無理矢理抱かれたあの夜の記憶を蘇らせるようで、無意識に身体が震える。 「会わなくてもじゃないって」 「ツナさ…」 「もう会わせてなんてやらない。…愛は俺だけ見てればいいから」 頬を滑った彼の温かい手が、あたしに向けられた冷たく鋭い瞳が、あたしの全ての抵抗力を奪った。 ゆっくり重ねられた唇に、感じたのは妙な胸騒ぎ、頭を過ぎったのは隼人が最後に見せてくれた笑顔。 もう、貴方に会えないと──、 心の奥底で直感している自分がいた。 *** 「感情に走るなって言ったはずだぞ」 「全く、愛のことになると頭が真っ白ね、隼人」 俺は今、リボーンさんの部屋で姉貴とリボーンさんの二人に俗に言う説教というものを受けていた。何で姉貴がいるかっつーのは俺が一番聞きてーし。 「何で姉貴まで俺と愛の関係知ってんだよ」 「何年、貴方の姉をやってると思ってるのよ。見ていればそれくらい分かるわ」 姉貴の言葉に、そんな分かりやすかったか?と思い返してみるがそれらしい答えは出てこなかった。 「それより問題なのは篠宮淋ね。…あの子に関しては、悪い噂しか聞かないわ」 「同盟ファミリーっつー事で見逃してはきたが、アイツが敵に回ると厄介だな」 「そうね、…今回の一件で誰かさんが面倒なことを起こしてくれたから余計に」 あー、うぜー。俺だってしたくてした訳じゃねーんだ畜生。ただ今行かねぇと愛が手の届かない、そんな存在になりそうで怖かったんだ。 姉貴から向けられる視線を受け流して、俺はある一点に目を向けていた。 「愛とは暫く会えねぇだろうな」 「!……分かってます」 俺が目を向けていたのは部屋の扉。アホみてぇだけど、何か何もなかったみてぇに笑ってお前がこの部屋に飛び込んできてくれる気がしたんだ。 バンッ──── そんな俺の考えを肯定するかのように開かれた扉。ノックもなしにリボーンさんの部屋に入ろうなんざ自殺行為だぜ。 そう思いながら開かれた扉に視線を戻せば、そこにはいていいはずのない奴の姿があった。 「てめぇ、いい度胸だな。…何しにきやがった。答えねーならこの場で息の根止めてやるぞ」 そんな俺の意識は、リボーンさんの一言で現実に引き戻された。…何でこの女が、篠宮淋がここにいんだよ。 「あら、私が用のある方は貴方じゃなくってよ。ボンゴレ一の一流ヒットマン、リボーン」 リボーンさんに拳銃の銃口を向けられても撃たれないと分かっているのか、全く動じた様子もねぇ。 「気安く名前で呼ばないでちょうだい」 そんな事に考えを巡らせていた俺は、姉貴が指摘した事で漸く、どれだけ失礼な女なのかを悟った。リボーンさんを呼び捨てにしていいのは限られてんだよ、クソ女(あま) 「ごめんなさーい、愛人さんもいたのねー。気がつかなかったわ」 「てめー!──」 「隼人!」 心の中で留めていたその心情は、次の篠宮の言葉に粉砕した。頭に一気に血が上り掴みかかりそうになった俺は、側にいた姉貴に止められて、その代わりに響いた銃声はリボーンさんの愛銃から発せられたモノだった。 「ビアンキは俺の女だ。愛人なんかと一緒にしてんじゃねぇ」 「「リボーン(さん)…」」 俺でも悪寒を感じるほどの殺気を放つリボーンさんから発せられた言葉に、俺と姉貴は同時に同じ反応を示した。 認めたくねぇけど、姉貴を侮辱された事に俺は腹を立てたんだ。それをたった一言で切り捨ててくれたリボーンさんの言葉は、俺の苛立ちを取り除くには十分だった。 「フン、そんな事どうだっていいわ。……私が用のある人は貴方よ、獄寺隼人」 「は?俺は用なんてねぇんだよ」 「フフッ、あるわよ。私が何の為にボンゴレに招かれたと思ってるの」 不適に笑う篠宮に、俺は妙な胸騒ぎと、パーティーの時にも感じた、愛を失ってしまうような恐怖感を同時に感じていた。 「獄寺隼人、今日から私が貴方の婚約者よ」 その言葉に俺を含めてその場にいた全員が言葉を失った。 .... (何でか分かんねぇんだ) (何でか分からないの…) (ただお前を) (ただ貴方を) ((失ってしまいそうで怖かった)) ... ビアンキとリボーンは恋人同士で(笑) |