仕掛ける前に仕掛けられた大きな罠が、二人の仲を引き裂かんことを──… ───裂き事 十代目と愛を見送った俺は、直ぐにリボーンさんと、集まる並盛同期の奴らの所に向かった。 「よ、遅刻組」 「煩ぇな!あのバカ女の所為でこっちまでとばっちりだったんだよ!」 そっちに行くなり、酒片手に相変わらずのバカ面してやがる山本に怒鳴れば笑って流された。ったく一々癇に障る。 「愛ちゃん、来ないんですかー?」 「十代目と挨拶回りだ、大体こなくていーんだよあんな奴」 「獄寺さん、それは聞き捨てなりません!ハルは愛ちゃんとツナさんに会う為、遙々イタリアに来たんですから!」 酒が入ってる所為か、いつにも増して興奮気味のハルを適当にあしらってさり気なく、リボーンさんの横に立つ。 「──、ツナの奴、厄介な客を連れ込んだみてぇだぞ」 「厄介?…何かあるンスか?」 俺たちの目の前で騒ぐハルや山本、笹川に悟られぬよう、始まった話に、不覚にも強く反応してしまった。 「ああ、…一騒動ある。裏をかかれた」 悔しそうに舌打ちするリボーンさんの視線は、会場中央で固まっている愛へと注がれていた。 って、アイツ何固まってんだ?つか、あの女、どっかで──。 「あれ、淋ちゃんじゃない?」 「ホントですー、愛ちゃんと再会できたんですね」 再会?どういうことだ。ハルたちが知ってて愛も知ってるなら、俺がしらねぇわけねーじゃねぇか。 「篠宮淋、──愛の元同僚だ」 「え──?」 「ハル達には利用価値を感じて近づいたんだろう。アイツはボンゴレ同盟トップ3に入るファミリーの令嬢だ」 「!──」 パシーン──── 俺がその事実を聞いたのと同時に、乾いた軽快な音が辺りに響いて、騒がしかったパーティー会場は水打ったように静まりかえった。 「何するのよ」 「……っ」 パンッ───── その静まりかえった中でもう一度響いたそれは、愛の頬を強く打った。 「あ、──!」 「今動けばあの女の思うつぼだ、抑えろ」 俺がつい感情に走って、一歩踏み出した所で、後ろから凄い力で腕を掴まれ、元いた位置に引き戻された。 振り返れば、気持ちを押し殺しながらも殺気を抑え込めきれていないリボーンさんが、真っ直ぐに愛を見つめていた。 「すいません…」 無言のままのリボーンさんに、俺は血が滲み出てくることさえ気づかず、強く拳を握りしめていた。 そうでもしねぇと、抑えきれねぇんだよ。 頬を打たれた愛は、俯いたまま、篠宮淋の言葉を聞き、震えているようだった。それが俺の胸をこれ以上ないくらいに締め付ける。 そんな俺たちを視界の端に止めた篠宮は、不適な笑みを向けて、愛の横を通り過ぎ、会場を後にした。 「!っ……」 くそ、何で俺は突っ立てることしかできねぇんだよ。側に行くことさえ出来ない、そのもどかしさに自分の無力さを痛感する。 「お騒がせしました、少々問題が起こりましたので、俺は席を外させてもらいます」 そのとき、マイク越しに響いた十代目の声。その場は余計に騒がしくなる。 けど、今俺の頭を支配するのは、抑え込めそうもないほどに溢れ出る怒り。愛の肩を抱く十代目と交わった視線に繋がった点と点。 ¨よく我慢した¨とでも言いた気なその瞳は、この惨事を予想していたと物語っている。……バレるバレないの領域じゃないって事ッスか十代目──。 「獄寺!」 「──っ」 俺はリボーンさんの言葉にも、耳を貸さずに走り出し、十代目と愛の前へと回り込む。 「十代目、」 「!っ……」 「愛落ち着かせたら戻るから、それまで頼むよ」 俯いたまま、十代目に肩を抱かれている愛は俺の声に体を震わした。それと同時に俺に向く十代目の目が鋭くなった。 「……はい、分かりました」 取り敢えず殊を大きくしない為にも、感情を抑え込み、頭を下げた俺にかかった言葉はそれを音もなく打ち砕いた。 「愛を傷つけてるのは俺じゃない……隼人だよ」 「!──」 その言葉の核心は、俺と愛を完全に引き離すと、そう告げていた。俺にしか聞こえてなかっただろうそれに、ただただ頭を下げたまま固まっているしかなかった。 思えばこの時からだったかもしれない。俺と愛の関係にヒビが入って、信じるという難しいようで簡単なことが出来なくなっていったのは──。 なあ、愛───、 もし、やり直せるっつーなら、 この時、誰に何を言われようと、 どんな冷たい視線を向けられようと、 お前を、 十代目から奪っちまえばよかった。 .... (思わぬ来客者によって) (もたらされた不安と闇) (抜け出す術は、皆無──) |