仕掛ける前に仕掛けられた大きな罠が、二人の仲を引き裂かんことを──… ───裂き事 「愛、久しぶり」 「り、ん……?」 突然あたしの前に姿を現した彼女、淋は、あたしの元親友。現在進行形じゃない、過去の話だ。 「今日は愛に会えるっていうから、わざわざ来たのよ?」 そう言って不適に微笑む彼女の意図が掴めなくて、隣にいるツナさんに視線を投げかける。 「彼女、愛の親友だって言うから、ボンゴレに迎えようと思って。俺からのサプライズ、喜んでもらえた?」 すると彼は、凄く愉しそうな笑顔を向けてそう口にした。そのツナさんの言葉にはお世辞にも嬉しいと返すことができなかった。絶対に顔が引きつってる。サプライズ──?冗談でしょう。 「綱吉様、愛ったら驚きが勝って言葉にならないんですわ、少し、二人にしていただいて構わないかしら?」 嫌よ──。誰がアンタと二人きりになんかなるもんですか。 「あたしはツナさんとの挨拶回りが─」 「いいよ、折角会えたんだから話しておいで」 「!──…」 あたしの言葉を遮って出たツナさんからの残酷な言葉に、あたしの思考回路は完全にショートする。彼が何故こんなことをするか、それが読みとれない。 「では遠慮なく」 淋の手が、あたしの手首をきつく握り、感じる痛みより、向けられる笑みに過去の記憶がフラッシュバックして、気がついたら思いっきり彼女の頬を平手うちしていた。 パシーン──── 乾いた軽快な音が辺りに響いて、騒がしかったパーティー会場は水打ったように静まりかえった。 「何するのよ」 「……っ」 パンッ───── その静まりかえった中でもう一度響いたそれは、あたしの頬を赤く染める。痛い、そんな感覚はなかった。 ただ、淋の嘘の仮面が剥がれ、あたしの記憶に残る冷たい表情が露わになり、それがあたしの胸をこれ以上ないくらいに締め付けた。 「パーティーが台無しね、貴方、それでも綱吉様の婚約者なの?──ブスのくせして」 「っ!」 最後の一言は、きっとあたしにしか聞こえちゃいない。淋はそのままあたしの横を通り過ぎ、会場を後にした。 視界が歪む。あたしは頬を押さえたまま俯いて、別の意味で騒がしくなる会場を遠くに感じた。 どうして──。どうして、また、あたしの未来を打ち砕こうとするの…。あたしに何の恨みがあるのよ…。 「お騒がせしました、少々問題が起こりましたので、俺は席を外させてもらいます」 「っ──」 そんな放心状態のあたしの肩に回った腕に、マイクから会場に響くツナさんの声。それを耳にして、漸く自分がやってはいけないミスを犯したのだと悟った。 「ごめん、愛」 「!──…すみませんっ」 それなのにツナさんからかかった言葉は、あたしを咎めるものじゃなくて、優しい謝罪だった。あたしはそれに対して、謝ることしか出来なかった。 ツナさんも悪気があって淋を連れてきたんじゃないのにっ、問題起こして迷惑をかけた…、その事実があたしに重くのし掛かる。 「十代目、」 「!っ……」 「愛落ち着かせたら戻るから、それまで頼むよ」 俯いたまま、ツナさんに肩を抱かれて会場から出たあたしは、いきなり聞こえてきた大好きな彼の声に、ビクッと体が震えた。 ツナさんはそれに気づいたのか、あたしの肩を抱く腕に力を入れた。それに無言の重力を感じたあたしは、顔を上げずに彼に寄りかかったまま隼人の横を通り過ぎた。 「……はい、分かりました」 何かを言いたそうだった隼人を一人残して、今すぐにでも、隼人の胸に飛び込みたい衝動を抑えて───。 思えばこの時からだったかもしれない。あたしと隼人の関係にヒビが入って、信じるという難しいようで簡単なことが出来なくなっていったのは──。 ねぇ、隼人───、 やり直せるというならば、 この時、誰に何を言われようと、 どんな冷たい視線を向けられようと、 貴方の腕の中に、 感情に任せて飛び込めばよかった。 .... (思わぬ来客者によって) (もたらされた不安と闇) (抜け出す術は、皆無──) |