君を探せない<045> ――カツン 魔法チェス盤を使うのを中断したのは30分前。見ているほうが可哀相だと言った。が、実際のところは時たま飛んでくる破片が煩わしくてのこと。駒同士の潰しあいはなかなかにえげつない。 そんなこんなで動かなくした駒を自分で動かすようにしてからも30分。終わらない。全く終りが見えない。 「ね、レギュラス」 「……なんですか?」 ……。なんだその「さっさと打て」と訴えてくる迷惑そうな目は。こっちだってこんなに時間かけるつもりなかったのに、レギュラスが食い下がってくるからじゃん。 「それぞれ持ち時間は30秒で、それを超えた時点でその人の負けってことにしない?」 「いいですよ、このままじゃ埒が開かないなと思ってたところでしたから。ただ、30秒だけだと簡単すぎませわんか?」 「そ。だからその30秒の間、もう一人は相手に話し掛けることにして。相手は必ずそれに答えなきゃダメだってことにすれば面白いかなぁって」 「わかりました。」 杖を一降りして現れた砂時計をテーブルに置くまでの動作はまさに、貴族。優雅だ。 これでいいですか?なんて尋ねて来る声も滑らかで、どこと無く猫を被ったリドルに似てる気がしないでもないような…… やっぱり似てない。 リドルはもっとタチが悪いというか……何と言うか。 「あーうん。良いよ、充分。」 「じゃあ今から30秒で」 新ルールを告げる声と同時にコトリとテーブルと砂時計のぶつかる音が響いた。 それすら優雅に聞こえたのは、私の耳がおかしいからか。 「普段、お見かけしませんがやっぱりずっとこちらにいらっしゃるのですか?」 「うん。また面倒なことに巻き込まれるよりは、少し暇だけど我慢してたほうがいいかなーって はい、次。レギュラス。」 私がひっくり返した砂時計はコトと音を立てる。レギュラスとは何が違うっていうんだ。 「何拗ねてるんです」 「拗ねてなんかないし」 「それを拗ねてなければ何と呼べば良いのかと」 「なんで私が逆に質問されなきゃ―― コトリ。 ――っ、やっぱ納得できない」 「だから何がです?」 「なんでレギュラスはそんなに優雅というか、洗練された動作を取れるのかと思って」 コト―ッ 「……は?」 初めて見たレギュラスの素であり、驚いた表情 「だってさ、普通そんなに滑らかな動きの人いないよ。舞だって踊れそうな感じだし」 「別に、私は生まれが生まれですから…叩き込まれたんですよ」 カツン 「叩き込まれた?」 「ええ。いちおうこれでも名家と呼ばれるブラックを姓に持つ身として小さい頃から付け込まれました」 「その喋り方も?」 「そうなります、ね。」 「じゃあそれひとつやめよう。」「は……?」 コツ もう一度と、挑戦はしてみるがうまくいかない。 「大分無理してるでしょ」 「いえ、そんなこと……」 「私が喋りにくいもん。こっちはこんなんなのに、相手に敬語使わせるって……。しかもレギュラスって私より年上じゃない?もしかして。」 「そこまで言うなら……。けど、歳に関しては別に変わらない筈だったと――思うが」 話ながらも砂時計を回すのを忘れない。 私だったら絶対にこの砂時計になりたくないな。これは100ぱー酔うって。30秒起きに前転…… げっ、想像しただけでも気持ち悪い。 「今何年生?」 「……5年」 「うっそー……、ホントに変わらないというか、寧ろ若干私の方が足りないかも…。」 ビショップを詰めさせた。 これで逃げてくれればこっちのものだけど。 「こっちとしてはあんたが同い年っていうことのほうが驚きだ」 「いいよ、良紀で。ここに出入りする人で同い年かぁ。でも見た目はしかたないよ、ジャパニーズだもん」 「ジャパニーズ?」 やっぱりそう簡単には策に落ちてくれない。しかも逆に仕掛けてくる。なんて負けず嫌い……! 紅茶を片手にちょっと不機嫌に睨んでやると、そこにはいつもの強気さじゃなくて疑問に埋もれた表情のレギュラス。 「あそこに、魔法族はいないと聞いてるが。何処の家の出だ?」 しまった。 「おいっ大丈夫か!?」 「あ……」 それに気付いた瞬間手から抜け落ちて膝へと落ちたカップ。中身が零れて熱いはずなのに体はどんどん冷えていって、手なんか血が凍ってるんじゃないかってほどに刺すような痛みで軋む。 何が起きているのか見えているのに理解できない。 どうしてカップが落ちてるんだ? 「 」 何かを呟いたレギュラスの声に連れられて割れたカップも零れた中身も姿を消した。 「何ぼうっとしてる。カップくらいちゃんと持って」 「あー、ゴメン。思ったより熱くて…」 最近はどうも緩んでいたかもしれない。 迂闊だった。 「ったく、あの方の気持ちが少しわかった気がするな」 「……?」 「いい。それより火傷とかはしてないか?」 「大丈夫…だと思う。ねぇ、片付けちゃうの?」 カタカタと勝手にケースに帰って行く駒達を指差すと短く、ああとだけ返事がかえってきた。 「もう時間だし、動揺してるやつに勝ったところで面白くない」 「げー……自信家…」 「当然、だろ?」 もう少し驚いたりしてたほうが可愛いげだってあったのにねぇ!ミスターブラックは! 「じゃあさ、自信家なミスターブラックに免じてさっきの質問に答えてあげる」 気付いたらもう扉に手をかけている状態のレギュラスの背中に言葉をぶつけた。振り返った反動でローブがはためいて、あの部屋のカーテンを思い出した。 「どんな免じ方……、言えるのか?」 「言うからには嘘はつかないよ」「そうじゃなくて、話したくないことを無理に話さなくたって」 ヴォルデモートさんといい、レギュラスといい、黒髪の人は実は優しいとでもいう決まりでもあるのか。 リドルは―― ……やめた。どうしてこんなに、ここにはリドルを思い出させる出来事が溢れてるんだろう。 「必ず答えることって言ったのは私だから、約束はちゃんと守るよ。もう二度と約束破ることはしたくないから」 ほら、やっぱり優しい。 わたしのことで困ったような顔しなくていいのに 「今、この世界で私は生まれてないことになってるの。あとは好きなようにとらえていいよ」 いつもみたいに笑ってよ。 どうしていいかわからなくなるじゃない。 そうか、なんて納得しないでよ。 もっと聞いてくれれば答えられるのに。そうすれば宙ぶらりんな今から解放されるのに。 助けてよ、誰か。 「……待って…っ、レギュラス!」 045:君を探せない 「こんど来るとき、呪文学の本を適当に持ってきてもらえるかな」 (ホントは怖い、なんて言えない) ―…―…― とりあえず、レギュラス! 口調がシリウスと分け切れなかった感が否めないが! 強がって肩肘はって高圧的な物言いだといいなー。だけど「僕」も棄てられん *←→# [戻る] |