[携帯モード] [URL送信]
クリアランス(牧物 キリ女主)
*牧物 ふたごの村 キリクと女主
*ノット悲恋!!
*女主の名前はサト



〜〜〜〜〜


「今日からサトの友達やめたいんだ」


真剣な目で私を見つめながら、キリクくんが静かにそう呟く。
突然告げられた、友人関係破棄宣言。
鈍器で殴られたような痛みが、頭の中を駆け巡る。あまりの衝撃に、グラリ、大きな目眩がした。


今までの彼と私の友好関係は至って良好だった。
──良好だと思っていた。

会えば挨拶は必ずするし、差し入れもするしされるし、デートのように二人きりで遊ぶことだってあった。
私が困っていたらキリクくんは助けになってくれたし、もちろん私も彼が困っていたら全力で助けになった。
彼と私は気の合う“仲良し”だと、少なくとも私自身はそう認識していたのに。

懸命に記憶を辿るが、理由がさっぱりわからない。思い付きすらしない。
何か、気付かぬうちに無神経なことをして怒らせたのだろうか。
今まで私に向けてくれていた笑顔の裏で、彼は一人傷付いていたのだろうか。
友人関係を破棄したいと思うほど、今まで私はキリクくんに嫌われていたのだろうか。
そんなことを考え始めるとキリがなくて、哀しみに胸が押し潰されそうになる。
彼の言葉に何か返答しようと開いた口からは、ただ空気が漏れるのみ。
言葉にならない想いが雫になって、視界を大きく歪ませる。


「私、ごめ…なさ…っ」

「あー…ごめん、言葉が悪かったな」


止まれ、止まれ。
そう願い幾度拭えど、止まることのない涙。
本格的に泣き出した私をバツが悪そうな、曖昧な苦笑いで見つめながら、キリクくんが私の頭を撫でる。
それは大きくて、あたたかな手。
すぐ側に彼の存在を感じて、また次々に大粒の涙が溢れてきた。

心地好いぬくもり。柔らかな声。
私をいつも勇気づけてくれる唯一のヒト。
与えられる優しさに胸がギュッと締め付けられて、苦しくなる。

どうせなら。
こんなふうに同情するくらいなら、もういっそ一思いに突き放してくれればいいのに。
そうしたらきっと私はキリクくんから離れられる。
悲しいけど、彼のためだって割りきれる。
それなのに、こんな風に触れるだなんて。
友人をやめたいといったくせに、こんなところで優しさをみせるなんて。
そんなの反則じゃない。

関係を断ち切ろうとする一方で甘やかされると、都合よく勘違いしたくなってしまう。
本当は嫌われてないんじゃないか、とか。
友人をやめたいのには何か他に理由があるんじゃないか、とか。
都合良く解釈してまで希望を繋ぎとめたくなる。
それほどまでに、私の中で彼の存在は大きかった。
いつのまにか大きなものになっていた。


(…そっか)


大事、だったんだ。
キリクくんの笑顔が、心地の良い距離感が。
私にとって何物にも代えられないほど、大好きで大事なものだった。
関係が崩れかけて、なくしかけてようやく気付く。
キリクくんは私にとって、誰よりも大切なヒトなのだと。



「泣くな、サト」

「キリク、くん…?」

「オレさ、あと一つお前に伝えないといけないことがあるんだ」



“さよなら”

その四文字を聞くのが怖くて、反射的にギュッと目を瞑る。
もっと一緒にいたいとか、ずっと貴方の笑顔を見ていたいとか。
そんな我が儘ばかり溢れそうになる気持ちを押さえ込んで二人の間に流れる沈黙に耐える。
身を縮め無言の先を待つ私の耳に飛び込んだのは、想像以上にもっともっと衝撃的なものだった。


「友達をやめて、俺の恋人になってほしい」



例えるなら、まるで身体中を雷に撃たれたかのような衝撃。
告げられた言葉が頭の中で飽和して、思考が真っ白になる。

キリクくんの恋人。

それは友達よりもっとずっと彼に近くて、幸せで、温かな存在。
今の関係を一新してのみ得られる、特別な存在。


ゆっくりと瞳を開き顔をあげれば、キリクくんと目があった。
いつものように優しい──ううん、いつもより更に優しい彼の眼差し。
瞬く間に上昇していく身体の熱。
それさえも心地好く思えるほどに、柔らかな世界が私を包む。

留まるか、戻るか。
一進一退を迫られた私が次にとるべき行動は、言うまでもなくただ一つだった。



クリアランス

(新しい二人を始めましょう)

END

[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!