アラロスでマイアイ
*アラロス マイセンとアイリーン
*一生報われない、噛み合わない恋
*雰囲気で読んでください
〜〜〜〜〜
“触れたい“
ふと脳裏に浮かんだ感情を、頭を振ることで思考の片隅へと追いやった。
眠っている人間に触れるだなんて、そんな何の意味もないこと。ましてや、相手はあの虫酸の走るようなヘラヘラした笑みを常に貼り付けているような得体の知れない男だなんて。私は一体どうしてしまったのか。
仮にこの男――マイセン=ヒルデガルドと私が恋人同士であったなら、或いは昔に読んだ陳腐な恋愛小説のワンシーンにでもなり得るのだろう。眠る恋人の髪を撫で、頬をなぞり、小さなキスを一つ落とす。なるほど、実に陳腐な恋愛劇である。
しかし、あいにくマイセンとそのような関係になった覚えは一切ないし、勿論なるつもりもさらさらない。
私が求めているものは普通の暮らしで、普通の恋愛で、普通の恋人だ。こんな掴み所がなく、ましてやトラブルを喜んで運んでくるような男なんて、私の理想ではないし御呼びでもない。
決して好きなんかじゃない。
一切触れたくなんてない。
――こんな、私のことを見ようとしない男のことなんて。
「…あーぁ、キスの一つでもしてくれるかと思って期待したのに。つれないなぁ、プリンセスは」
「マ…っ!?」
“マイセン”と。突然開かれた瞳に驚いて、その名を呼ぼうとしたけれども。更に突然に与えられた抱擁と口付けによって、結局はそれも出来ず終いとなった。
軽く、啄むような小さなキス。例えるならば、昔に読んだ陳腐な恋愛小説のワンシーンのように。私が躊躇った距離さえも、一瞬にして飛び越えて。理想とは全然違う、別に好きなんかじゃない男は、いつもいとも簡単に私の心へと踏み込んでくるのだ。
まるで私の否定も、戸惑いも、全てがもう手遅れだと嘲笑わんばかりに。
「好きだぜ、アイリーン?」
「…私は嫌いよ」
唇が触れるか、触れないかの距離で男は甘ったるい愛を囁く。息をするかのごとく、何の戸惑いもなく嘘を吐く。
だからそれに対抗して、私も同じように嘘を吐いてやるのだ。
この胸の内に抱えた想いを決して誰にも――自分自身にさえも気付かれぬように、と。
唄う嘘つき
(愛の調べは所詮幻想)
END
*
妹を愛してしまった愚かな男と、そんな男に振り回される一国の姫の話。
マイセンの言葉はどこまで本気かわからないので難しい。
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