まぼろばの蒼月
011
『……エースくん……、く、苦しい』

力任せに抱き締めるエースに、息苦しさを訴えるシャナメルは、ぽこぽこ、ぺちぺち、と、エースの背中や腕を叩く。

「わっ、悪ィ!!」

エースは慌てて、シャナメルを離す。

『……はぁ、苦しかった……』
「ごめん、嬉しくってよ……」
『……エースくん、いったい何があったの?』

自身が眠り続けていた、なんて露とも知らず。
シャナメルは、きょとん、とした眼差しをエースに向ける。

「ーーーーー……何処まで覚えてる?」
『テンタクルスが襲って来て……』

その時の状況が脳裏を過ったのだろう。
じわり、と、涙がシャナメルの瞳を覆う。

「………」
『エースくんが、死んじゃう……エースくんが居なくなっちゃうって……思ったの。それから……記憶がないの……』

ぽたぽた、と、涙が溢れ落ちる。

「メル。おいで」
『……エースく……っ。ふぇえええ』

腕を広げて、シャナメルを招き入れると、優しく、背中を撫でる。

「よしよし。もう、大丈夫だからな」
『ふぇえええ……居なくなっちゃやだよ。置いて行かないで……!』
「……!」

シャナメルの悲痛なる言葉に、エースは胸が締め付けられる。

[おれはーーーーー……バカだ]

目の前で両親を殺されたシャナメル。
ずっと、今までひとりぼっちだったシャナメル。

[2度とひとりぼっちにはしねェって、ずっと側に居るって約束したのに……]

もし、シャナメルの"海神の姫"としての力が目覚めてなかったら、今頃、自分達はどうなっていただろうか。
きっと、死んでいた、だろう。
そうなっていたら、シャナメルはひとりぼっちだ。
そして、永遠に責め続けるに違いない。

『不幸を招く、死を招くセイレーン族』

人と関わりを持たず、ひとりぼっちで、生きていかなければならない。
その辛さは、痛いほど判る。

「ごめん……メル。ごめんな」
『……ふぇえええ……エースくんのバカァ!!』

ぽこぽこ、とエースの胸板を叩く。



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あきゅろす。
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