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夏に雪
昔の名前

初恋かぁ、いつの話だかなぁとユキは面倒くさそうに呟いた。ユキの初恋っていつなのと訊いたが、聴くだけ無駄だよ、下らないからとユキは適当に笑い、そろそろ帰ろうかと鞄をいじりだした。私はユキの初恋を知りたかったが、また傷付くのも嫌だったので話を切り上げ、入り口まで送ってくれたマスターにまた来ます、ご馳走さまでしたとお礼を言ってから店を出た。


「どうする?その儘帰る?それとももうちょっとぶらつく?」

どうしようかなと言いながらマナーモードにしていた携帯を見れば母親からメールが着ていた。読めば、今どこに居るの?そろそろ帰って来なさいと書かれていた。ごめん、もう帰らないとと言い掛ければ少し下にスーパーか何かで大根買ってきてと書かれていた。私が読まなかったらどうするつもりだったのだろうか、ユキにゴメン、近くにスーパー無いかなと訊けば、ああちょっと先だけど大きいのが在るよと返事は返ってきた。クレープ帰りの女子高生がスーパーとは情けない。普通、カラオケか何かだろうにと落ち込みながらユキ、空気読めなくてごめんねと私は謝った。ユキは吹き出し気味に笑いながらいいよいいよ、スーパーって何かナツらしいしと笑った。私も安かったら何か買おうかなー、豆腐とかとユキは言った。私は不意打ちで笑わされ、大笑いで少しよろめきながら私達はスーパーに向かった。



買い物を終え、大根が入ったビニール袋を片手に持ちながら駅へ向かいのらくら歩く。人気の無い道の中、女の子Bってアキの事だったんだと呟く。男の子Aはハルで、アキって、ハルの事が好きだったみたい、お昼睨んでたのはその所為で、その日に廊下に呼び出されて八つ当たりされた事、それで恋の範囲の事を訊いた事…のらくらと歩きながら、私はユキに全てを話していた。ユキはただ私に歩幅を合わせて前を見て歩きながら相槌を打った。傍目には真面目に聴いていないように映ったかもしれないが、私にはそれが有り難かった。ただ話すだけで楽になる事だと言う事を、ユキは理解して聴いてくれているような気がした。

駅前に付き、人は先程より多くなっていた。送ってくれて有り難う、また明日ねとユキに手を振る。ユキと別れ、私は駅に戻る為ユキに背を向けて歩き出そうとしていた。傍で掛かった、おばさんの声が耳に届くまでは。

驚いた。驚いて、私は背を向けた方向に振り向いた。おばさんは大分嬉しそうにユキに近付いている。ユキは、お久しぶりですおばさんと懐かしげに笑っている。その名前は本当なのだろうか、私は耳を疑いたくて仕様が無かった。


「あら、早坂さんじゃない!随分大きくなったのね、まだ絵は描いてるの?」


早坂。
『親が離婚していて』
『絵が上手くて』
『私の』

私の初恋の相手は過去の早坂綾実、現在の及川綾実だった。

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あきゅろす。
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