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夏に雪
ハルのこれから

ユキの前の名前を知ってから季節は過ぎ、五月の風は六月にべたつき、べたついた風は七月に乾かされつつあった。昨日は色々考え込んでいて、全く眠れなかった。翌日着いた学校でハルに異様な目許のクマを指摘された。睡眠不足は女の子の大敵なんだよぉ、今コンシーラーしてあげる!ハルはそう言いながら化粧ポーチからコンシーラーを出し、私の目許を弄り始めた。私はそれに何も言わず、されるが儘になっていた。

「私ねぇ、あれからバイトちゃんと頑張ってるんだよぉ」

そうなのだ、ハルは親に連れられあのドラッグストアへ行き、事情を陳謝しに行った。品物とお金を返し、学校も辞めても仕方無いと決め込んでいたらしいのだが、事情を汲んだ店主の計らいで、ハルはあのお店に勤める事になったのだ。化粧品関連が似合うと思っていた事もあり、私はこの事を素直に喜んでいる。新しい化粧品をいち早くチェック出来たり、お客さんに合わせて薦めたりする事が楽しいとハルは話してくれる。初めは疑っていただろう店主も今ではすっかりハルの事を認め、信用しているらしい。焦げ付きや生煮えのようなおかずの入ったお弁当もお昼休みに見掛けるようになった。それをハルは嬉しそうに食べる。

「なっちゃん、私ねぇ?こういう化粧する学校に行きたいな」

コンシーラーをがっつり塗り込んだ目許を指先で伸ばしながらハルは言った。

「なっちゃんが私に化粧品関連が似合うよって言ってくれたのもあるし、今バイトしてみて、私にはこれが向いてる気がするんだぁ。勉強は苦手だしぃ…でもお化粧なら頑張れる気がするから」

頑張れるかな、とハルは笑ってみせる。大丈夫だよ、ハルなら出来るよ。私はハルにそう告げる。ハルは照れくさそうに笑う。私はにっこりと笑み返す。間違いや辛いことが合っても、それを力にする事は必ず出来る。ハルを見ていて、そう思うようになった。
コンシーラーでカバーされた目許をハルはまじまじと眺めながら、折角だからマスカラもしちゃう?他にも、なっちゃんに似合うようにお化粧していーい?とハルは返事を聴くまでも無く道具を机にばらまいている。私は諦め気味に瞳を閉じ、お好きにどうぞハル姫さまと言った。ハルはけらけら笑いながら嬉しそうに道具を手にとって私の頬を支えた。
オレンジ色のチークをのせたブラシが頬を撫でる。睫毛は黒く装飾され、目蓋には色がのりパール効果で優しく光を反射する。ハルは満足気に出来ましたー、ハル特製ハルメイクー!と手をぱちぱちしながらはしゃいだ。私は鏡を見ながらうわぁ、凄い可愛い、化粧が、とおちゃらけながら席を立ち教室を出るべくドアへ向かう。

「なっちゃん、」

ハルに声を掛けられ、ん?と振り向く。私、なっちゃんが居なかったら何にもならなかった、と少し震え気味の声は続く。

「本当になっちゃんに会えて良かった、有り難う!大好きだよ…」

ハルはそう言いながら俯いて目許を手で押さえた。私は私もハルの事好きだよ、これからも応援してるから!と笑顔の儘教室を出た。私が教室を出てから、立ち尽くすハルが床に崩れ落ちたのを見た。

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あきゅろす。
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