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ブルー・デュール
桜 常 編

105

「信用、してたのに……」
「なに言ってるんだよ。これからも信用してくれ。俺はりゅうを大事に思ってる。
俺にとってもりゅうは特別な存在だよ」

 友崇は笑いながらおれの頭をなでた。
 おれはねばつく唾を飲みこんだ。

「ずっと手元で育ててきたんだから、情が移らないほうがおかしいよな。でもそれだけじゃない。
りゅうだからこそ、こんなに大切に、愛しく思うんだよ」

 おれは喉に手を当てた。
 なにか、体がおかしい。

「どうしたりゅう君? なにか欲しいのか?」

 崇嗣が口を挟んできた。
 そう言われて、おれはなにかを欲していることに気がついた。

「薬が欲しいんじゃないか?」

 そうだ。
 いつもの発作が起きないからわからなかったが、あの青い薬を体が欲している。

「ああ……」

 友崇はおれの頭から手を離し、足元に置いてあった鞄を膝の上に乗せた。

「と、友崇、持ってる?」
「もちろん。ちょっと待ってろ」

 収まったはずの息が荒くなっていく。
 手に嫌な汗をかき始めた。
 早く早く、あれが欲しい。

「はい」

 しかし友崇が手渡してきたのは、革の鞘に収まった大きめのナイフだった。
 おれはナイフをシートに投げ捨てた。

「なんだよこれ! 薬だよ薬! 持ってないのか!?」
「持ってるよ。でもその前にお仕事しておいで」

 友崇はナイフを拾い、おれの右手首をつかんで柄を握らせた。

「鳴瀬たちはまだ近くにいる。これを使って、あいつらが奪ったピースを取り返してくるんだ」
「は、あ? なに言ってるんだよ。鳴瀬と倉掛は持ってないから」
「本條たちが管理してるのは知ってるよ。だが今あいつらは自分たちのことで手がいっぱいだ。
頭のいいあの双子なら、なにかあったときのために、
鳴瀬たちにもピースの場所かそこに繋がるヒントを教えているはずだ。だから、脅して奪ってくるんだ」

 友崇は真剣だ。
 冗談を言っているようには聞こえない。
 崇嗣に顔を向けると、威圧的な目で見据えられた。
 友崇の言うことを聞けと言外に語っている。

「そんなこと……」
「でないと薬あげないよ。大丈夫、りゅうが言えばすぐくれるって」

 おれは何度も首を振った。
 鳴瀬も倉掛も、そんな簡単にいくようなたまではない。

「無理だよ! そんなの絶対無理!」
「無理ならもっと脅せばいい。鳴瀬はお前にべたぼれみたいだし、隙ついて殺しちゃえば?」
「友崇」

 とんでもないことをさらりと言った友崇を、崇嗣が咎めた。

「なに言ってるんだ友崇。余計な波風は起こすな。そんな必要はない」
「高校生ひとりくらい、どうとでも処理できるでしょう。あいつはなにかと目触りなんですよ。
俺のりゅうにべたべたして、なにも知らないくせに偉そうにふんぞり返って。
このままだとりゅうを持って行きかねない」

 友崇の口調は授業中やホームルームのときとなんら変わりない。
 その口で、鳴瀬を殺せと言っている。
 こんな人、おれは知らない。

「ほら、りゅう。早く行っておいで。なにも心配いらないから。俺がついてる」

 同じ口で優しい言葉をかけられても、もう怖気しか感じられない。

 おれの知っている友崇は、本当の友崇ではなかった。


   ◇



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